第31話

「そうでしたか、やはりキールが…」


 自らの部下がとんでもない不正に関わっているという事実に、深いため息をつくトーマさん。


「それでトーマ支局長、コザットという人物をご存じありませんか?」


 同じ民生局のトーマさんなら、何か知っているかもしれない。


「…確か、キールがどこかの支局にいた時の上司だったはずです。今は中央にいて、エリートコースまっしぐらといった感じですね」


 コザットがキールの元上司という話は、どうやら本当のようだ。だとしたら、ますます二人のつながりは怪しくなるな…


「…ですが、彼が何か?」


「…ユキさん夫婦から鉱石をだまし取ったという中央民生局の人間、その張本人こそがコザットだったんです」


「な、なんですって!?!?」


 キールのみならず、中央のエリートまでもが犯行に関わっているという事実に、失望を通り越してもはやあきれ顔のトーマさん。


「…これはもう、組織ぐるみの行為…という事ですね…」


 深いため息と同時に、彼はそうつぶやいた。…長年使えてきた自らの局が、こんなスキャンダルを抱えていたなんて、確かに信じたくはないだろう…

 うなだれるトーマさんの姿を見た俺は、あえて話題を変える。


「…それで民生局には、鉱石に通ずる人物がいるという噂を聞いたのですが?」


 トーマさんは俺の投げた疑問に、少し考えたのちに回答する。


「…少し前に、ある民生局員が新種の鉱石を発見したと記事になった事があるんです」


 そいえば前に、ゴミ山でその記事を見たな…小さな記事で、全く役には立ってくれなかったが。


「世間的には全く話題にはならなかったのですが、局内では少しだけ話題になりました。その局員が一体誰なのか、皆が予想し始めたのです」


「その予想が広まっていく中で、新種の鉱石を発見できるなんて相当深い知識を有している人物に違いない、というプロファイリングだけが独り歩きを始めたんです」


「なるほど、それでそのような噂が」


 ならその人物も、今回の件に関係がある…んだろうか?

 そして俺とトーマさんが話を進めていたその時、突如ノックもなしに扉が開かれる。


「失礼しますよ、支局長」


「キ、キール…」


 今まさに話をしていた、キールご本人の登場だ。席に座る俺の顔を見たキールは、俺が何者かを思い出そうとしている様子だ。


「…あんた確か、前にあの女と一緒にいた…?」


「ツカサと言います」


 改めてキールに名前を告げる。前に会ったときは、名乗るどころではなかったからな。

 キールは不敵な笑みを浮かべながらじろじろと俺の姿を見た後、警告のような言葉を発する。


「…お前らなーんかいろいろと嗅ぎまわってるらしいけど、お前たちのためにもそれ以上はやめといたほうがいいぜ?」


「俺はもうすぐ中央に異動するんだ。そんな俺に逆らうとどうなるか、分かるよなぁ?」


 …なるほど。中央から支局に圧力など容易にかけられる、という事が言いたいわけか。全く底なしのクズのようだな。


「キール!!いい加減にしろ!!」


 あまりのキールの暴言ぶりに、トーマさんが激怒する。しかしキールは何食わぬ顔で彼に反論する。


「支局長、あなたもですよ?もうすぐ俺の方があなたなんかより数段上の立場になるんですから、俺には逆らわないほうがいいですよぉ?」


「お、お前と言う奴は…!!」


 そのままキールに殴りかかりそうになるトーマさんをなだめつつ、俺はキールに疑問を投げる。


「…それで、何か用ですか?」


 俺の言葉を聞き、ようやく用事を思い出した様子のキール。


「ああ、そうだったそうだった。支局長、俺はこれから中央に調整に行ってきますので、後の事はお願いしまーす」


 そう吐き捨て、部屋を出ていこうとするキール。…この男はありがたいことにわざわざ警告をしに来てくれたので、俺もそれにこたえて奴に警告する。


「キール、トーマ支局長やユキさんに謝るなら今だぞ?」


 俺の警告に、一段と気持ちの悪い笑みを浮かべるキール。


「くふふ。俺が?謝る?なんで??」


「名誉ある中央の人間たる俺が、お前らカスみたいな連中に何を謝るんだ?なあ教えてくれよぉ」


 いよいよトーマさんの感情が爆発する。


「キーーーール!!!!」


「いしししっし。じゃーなー!」


 楽しげにそれを見届けたキールは、勝ち誇った表情で足早に部屋を去っていった。俺はすぐに支局長室の窓から外を眺める。…しばらくして、外に飛び出していくキールとその後を尾行するミリアナとテルナの姿を確認した。

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