第29話
ヤシダの言葉を聞いた俺はテルナに合図し、拘束を解かせる。
「ふう…ふう…」
しんどい体勢からようやく解放されたからか、息が上がっている様子のヤシダ。…しばらくの間そうした後、ヤシダは話を始めた。
「…お前の言う通りだよ。申請書から新種鉱石の存在を見抜いたキールさんは、その情報をそのまま中央民生局の知り合いに流したんだ…」
情報を流した、やはりそうか。
「そんなことをする、キールの目的は一体なんだ?」
「…そんなの決まってるだろ…中央民生局に行くためだ…」
…中央に行くためだと?
「…どういうことだ?」
「…キールさんは、あの情報を中央に流すことと引き換えに、自身を中央に移動させてもらうよう頼んだんだろう…」
そこまでして、キールは中央に行きたいわけか。…しかしだとしたら、キールには協力者がいるはずだ。自身を中央へと引き上げてくれる、強力な協力者が。
「それを手引きしたのは誰だ?…中央の人間か?」
「…たぶん、コザットさんだ…あの人はキールさんの元上司で、今は中央にいるから…」
「コザット…」
また新しい容疑者が出てきたな…そいつに関しても、徹底的に調べる必要がありそうだ。二人が結託して、ユキさんたちから鉱石をだまし取ったという事になるのか…?
「なら、キールが独断的に二人への保護給付を拒んだのはなぜだ?鉱石の情報はもう手に入っている以上、勝手な判断をして下手にリスクを負う必要はないはずだが?」
「そ、そこまでは知らないよっ!!」
…まぁこの反応を見るに、本当に知らないのだろう。キールもそこまで間抜けではないようだ。
俺はヤシダのもとに近づき、根本的な疑問をぶつける。
「おいヤシダ、そもそもあの鉱石はなんなんだ?市場価値のないあの鉱石に、なぜそこまでキールはこだわるんだ?」
俺が何よりも気になったのはそれだ。あの鉱石についてはどれだけ調べても、今に至るまで何の情報も得られていない。
「そ、それは本当に、本当に知らないっ!!」
…そこまで期待していたわけではないものの、やはり知らないか…
しかし落胆する俺に、ヤシダは言葉を続ける。
「…だけど、民生局の中にはその鉱石にやたら詳しい人間がいるって噂ならある…そいつが中央の人間なのか、支局の人間なのかは分からないが…」
その噂、大いに気になるな…鉱石に精通するその人間になら、あの鉱石の本当の価値を見抜くことができる。そしてその人間と、キールやコザット達がつながっていると考えれば、話はさらに現実味を帯びる。
「も、もういいだろう…俺が知ってる事は本当に全部話したんだ…もう許してくれよ…」
確かに、これ以上こいつから聞き出せそうなことはもうないか…しかし、こいつの話が本当なら、こいつにはまだやってもらわなければならない事がある。
「ヤシダ、お前にはもう一つやってもらう事がある」
俺の言葉に、あからさまに不快感をあらわにするヤシダ。
「は、はあ!?もういいだろうが!?あんまり調子に乗ると」
「そうか、協力してくれないのなら残念だ。それなら仕方ない。さっき話した通り俺たちは王国に」
「わ、わかった!!!わかったよ!!」
実に素直な男で助かる。俺はヤシダに、やってもらわなければならない重要な仕事を伝えた。
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