第27話

--ヤシダ視点--


 まったく最悪の気分だ。もう少しの資金さえ集まっていれば、俺も中央民生局への異動が見えていたというのに…それもこれも、すべてあのツカサってやつのせいだ…


「ちくしょう…おぼえてろよ…」


 …おっとおっと、こんなことで感情的になるなんて俺としたことが。俺にはキールさんがついている以上、どうとでもなるじゃないか。現に先日会った時も、必ずなんとかしてくれると言ってくれた。…謹慎中に外に出るのはかなり危険だったが、事前約束だった以上仕方がなかった…しかし慎重に行動した甲斐あって、誰にも見られずに済んだことは間違いない。


「…ふふ。ぐふふ」


 これからの事を考えると、楽しくて笑いが止まらない。俺の謹慎処分はじきに解かれるだろうし、局へ復帰さえできればいくらでも反撃の手立てはある。さらになにより、これから中央民生局に移動するキールさんが味方なのだ。これからあいつらをどう痛めつけてやろうかと、考えただけでもワクワクが止まらない。

 …そんな時、不意に扉が誰かにノックされる。


コンコンコン


 …もうそんな時間か。ここ数日この時間になると、俺がきちんと自宅謹慎をしているかどうかを確認するために、局の人間がここを訪れるのだ。

 ったく、あいつらも暇だねぇ…俺は扉の前まで行き、何者かを確認する。


「誰だー?何の用だー?」


「今日も局から確認に来ました。サインをお願いします」


 …なんか生意気だな、ったく。もし俺が復帰したなら、こいつにもなにか痛い目見せてやらないとな。

 俺はイラつきながら扉を開けた。その瞬間、何者かに瞬速で胸ぐらをつかまれる。


「ぐっ…うっ!!!」


 あまりの一瞬の出来事に、理解が追い付かない。俺は反射的に閉じてしまった瞼をゆっくりと開け、状況を確認する。

 …俺の胸ぐらをつかんでいる女…こいつには見覚えが…!?…それにその後ろで、ゆっくりと扉を閉める男の姿が…俺が今、最も憎んでいる男の姿が…


「あ、あんまり大声出さないでくださいね…わ、私も手荒なことはしたくないので…」


 もうしてるじゃないか…この女表情こそ弱弱しいが、力はかなり強い…華奢な体のどこにこんな力が…俺は冷静に、頭の中からそいつの名前をひねり出す。…そして間もなく、あの姉妹の妹であることと、その名前を思い出す。


「お、お前確か…テルナとか言う…それにツカサ…お、お前ら一体なんで…」


 疑問が尽きず、とても状況を処理しきれない。一体こいつらはなんで俺の家を知っている?何の用があってここまで来た?っていうかこの女はなんでこんなに強いんだっ…?

 そしてこのタイミングで、沈黙していたツカサが口を開いた。


「ヤシダ。お前の知っていることを包み隠さずすべて話してもらおうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る