第26話

「もうっ!!聞いてるだけで腹がたつわねっ!その男っ!」


 俺たちの話を聞く早々、いら立ちを隠せない様子のミリアナ。…まあ確かに、キールの言動は今思い出しても憎たらしいことこの上ないが。


「…それで、そっちはなにか収穫あったか?」


 ミリアナとユキさんの食事に舌がとろけそうな感覚を感じながら、見張り担当だった二人に成果を訪ねてみる。…正直何もないだろうけど、一応確認しておかないと…


「それが聞いてよ!あともう少しでヤシダの奴を殴ってやれそうだったのに、テルナが止めるんだもん!」


「…は?」


 …何もないだろうという俺の予想とは裏腹に、どうやらかなり動きがあった様子。そうか、どうもさっきからミリアナがいら立っている原因は、それにあるのか。


「テルナ、そっちでなにがあったんだ?」


 俺の言葉にテルナは食事の手を止め、落ち着いて話始める。


「私たちが民生局を見張っていたら、近くを通るヤシダさんとそのお友達を見つけたんです。そしたらお姉ちゃんが…」


 ジト目でミリアナを見つめるテルナに、噛みつくミリアナ。


「私たちはあいつに殺されかけたんだから、一発でも殴ってやらないと気が済まないでしょ!?だからテルナと一緒に二人を尾行して、どこかのタイミングでぶん殴ってやろうと思ったの!!」


 …まぁミリアナの話は置いておくとして、それは少し気になるな。ハワーさんの話じゃ、ヤシダは今回の事件を受けて停職かつ自宅謹慎処分をくらっていたはず。…よりにもよって局の近くをうろついてるなんて、なにか不自然だな…


「それで、その後はどうなった?」


「ヤシダさんの家に着いて、二人で家の中に入って行きました!」


「なんでヤシダの家だって?」


「カバンの中から、あいつがカギを取り出して開けてたからよ」


 なるほど、それなら確かにその場所がヤシダの家という可能性は高いか。…しかし謹慎中に出歩くとは、あいつまた何かしでかすつもりなんじゃ…


「…それで、一緒にいた人っていうのはどういう感じだった?」


 俺の投げた質問に、再びいら立ち始めるミリアナ。


「なんかそいつもむかつく男なのよ!!意味わかんないネックレスをジャラジャラさせて、歩き方もすごく下品だったわ!」


「!?」


「!?」


 そのミリアナの話に、俺とユキさんは硬直する。…派手な歩き方に加えて、音がたつほど派手なネックレスをしている男って、まさか…

 俺は恐る恐る、二人に疑問を投げた。


「…なぁ、二人の会話の中で、その男の名前って聞こえてこなかったか?」


「はい!!確か、キールって呼ばれてました!!」


 …これは、どうやらつながっている話のようだな…俺もユキさんもすっかり食事の手が止まり、考え込む。


「な、なに、どうしたの?」


 不安気に顔を俺たちの覗き込んでくるミリアナに、一言告げる。


「…ついさっき話した、ユキさんを傷つけた男こそがキールなんだよ」


「っ!」


「!?」


 驚愕の事実に、驚きの表情を浮かべる二人。…二人の言う通りなら、キールはあの後中央民生局に向かったんじゃなく、ヤシダのもとに向かったという事になる。…今更ヤシダと話して、どういうつもりだったんだ…

 しかし、こちらにとっても好都合だ。わざわざ向こうから尻尾を出してくれるとは。


「よーし!よくやったぞ二人とも!!大手柄だ!!」


 俺は二人の頭を乱暴に撫で上げる。こういうのは慣れてないから勝手がよくわからないが、まぁ小さいことは気にするな。

 ギャーギャー言う二人をよそに、しばらくなでなでを続ける俺だった。

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