第25話

 俺の表情を不思議そうに見つめるユキさんが、口を開いた。


「ツカサさん、どうしたんです…?」


 俺はさっそく、導き出した推理を二人に話すことにした。改めて二人の前に申請書を提示し、説明を始める。


「ここを見てください」


 俺は申請書の資産欄を指さし、それを見た二人が該当箇所へと視線を移す。


「一体どこから鉱石の情報が漏れたのかを考えていたんですが、出所はきっとここです」


「!?」


「!?」


 その言葉を聞いた二人は資産欄にくまなく目を通すが、二人とも懐疑的な様子だった。二人の心中を代表するかのように、トーマさんが口を開く。


「し、しかしツカサさん、確かにここには鉱石に関する記載はありますが、新種の鉱石とは一言も…」


 そう、まさにそれこそがからくりの入り口だったのだ。俺は順に説明を続ける。


「そこです。保有鉱石とその概算価値についての記載を見てみてください」


 俺の言葉に促され、二人は該当箇所をじっくり眺める。そして少しの時間をおいて、二人が同時にあることに気づく。


「その価値…!?」


 おそらく気づいたであろう二人に、俺は確認をするように話す。


「新種の鉱石には市場価値がありません。すなわち、申告されている保有鉱石の量に対しての概算価値が、明らかに低いのです」


「っ!?」


 二人とも、まさに目から鱗といった表情だ。


「おそらく、キールさんはここから新種の鉱石の存在を見抜いたのでしょう。そして何の因果か、彼がこれから移動するという中央民生局に、その情報は流された」


「詳しい事はまだわかりませんが、ユキさんの保護申請を独断的に握りつぶしたことも、キールさんの中央民生局への異動も、何か関係があるように思われます」


 俺の推理を聞き終わった二人は、ともに信じられないといった表情を浮かべていた。そしてトーマさんが、その口を重々しく開く。


「…ほ、本当に信じられない…民生局が…こんなことを…」


 頭を抱え、うなだれるトーマさん。…人格者たる彼にとって、これはかなりつらい出来事であろう事は想像に難くない。

 しかしトーマさんとは対照的に、ユキさんはどこか少しだけ嬉しそうな表情を浮かべている。


「…ユキさん?」


「…そんなところにヒントがあっただなんて、私は考えもしませんでした…本当に、ツカサさんはすごい…!」


 彼女の熱いまなざしが、どこか恥ずかしい。


「た、たまたま…ですよ。それにこれが分かったのは、トーマ支局長が協力してくれたおかげです」


 俺はうなだれるトーマさんの前まで歩み寄り、改めて感謝を告げる。


「トーマ支局長、本当に、本当にありがとうございました!おかげで、今回の件の裏で何が動いているのか、徐々に見えてきました」


「ツ、ツカサさん…」


 悲しそうに、悔しそうにそうつぶやくトーマさん。


「あなたの覚悟を無駄にしないためにも、必ずや真実を白日の下にさらして見せます。民生局という誇りある組織に泥を塗った奴を、必ず暴き出して見せます」


 俺の言葉にトーマさんは無言でうなずき、答える。その目を見ながら俺は、こんなことをしでかした連中を必ず地獄に叩き落してやると、改めて誓った。

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