第24話
「中央…民生局…」
横に座るユキさんが、唇を噛みしめながらそうつぶやく。太ももの上に置かれた手が、震えている。
「ユキさん、ご存じなんですか?」
俺の問いに、彼女は首を縦に振って答える。そして悔しそうにつぶやいた。
「…私たちから、鉱石をだまし取った奴らです…!」
その告白に、トーマさんも俺も驚きを隠せない。彼女はそのまま、話を続ける。
「…私たちのところに突然、中央民生局の人間が訪れてきたんです…その時に、鉱石を譲渡してくれれば、お店は保護してやると提案してきて…」
「ちゅ、中央がまさか…そんなことを…」
ハワーさんと同じく、やはりトーマさんも話が全く信じられない様子だ。
「トーマ支局長、中央民生局とは一体どのような組織なんですか?」
俺の投げた疑問に、トーマさんはゆっくりと答え始める。
「…我々民生局員を束ねる、民生局の中枢的組織です。入局するには相当難易度の高い試験をクリアしなければならない上、一つでも汚点を作れば即、別部署に飛ばされるという、大変に厳格な組織です…」
「うわぁ…」
話を聞くだけでも圧倒される。まさに、エリート集団が集うような組織という事か…そして俺たちは今、そんなとんでもない組織を相手にしていると…
「…そんな中央に、キールさんは一体何をしに行ったんでしょう?」
その疑問に、神妙な面持ちで答えるトーマさん。
「…おそらく、事前あいさつにでも行ったのでしょう」
「…事前あいさつとは…まさか…?」
トーマさんは首を縦に振った後、言葉を発する。
「…実はキールに対して、異動の内示が出たのです。それも中央部への異動の内示です」
「!?」
そ、そんなことがありうるのか?ついさっきの話では、中央への入局は相当難易度の高いものであったはず…そんなところに、異動で入局できるなんて…
疑問を感じているのはトーマさんも同じようで、不信感満載の表情を浮かべながら言葉を放つ。
「…私もここに長くいますが、支局から中央に移れるなんて、正直聞いたことがありません。…一体どんなからくりがあるのか…」
キールの異動もかなり疑問ではあるものの、俺の脳裏には同時に別の疑問が浮かんでいた。…中央民生局の連中はどうやって、ユキさんの鉱石の情報をつかんだのか…前に彼女から聞いた話では、鉱石の事は誰にも話していなかったらしい…あくまで自分たちでその鉱石について調べ、その結果市場価値を有さない鉱石であると分かったため、例の取引に応じたのだという。
…俺はひとまず深く深呼吸をする。…なにか、見落としているものはないか…俺は改めて、彼女の申請資料を手に取る。それを上から順に眺めていた、その時だった。
「…!?」
俺の目に留まったのは、資産欄だ。さきほども見た通り、ここには正確に当時の二人の資産が偽りなく申告されている。…そう、嘘偽りなく…!
「…そうか、キールはここから情報を…!」
最初の謎が解けたかもしれない俺の姿に、不思議そうな表情を浮かべる二人
。まだ可能性の段階ではあるものの、俺はその推測に確信を感じた。
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