第23話
「どうもありがとうございます」
俺はトーマさんから渡された資料を受け取り、内容の確認を始める。
「…申請内容自体に不備は…なさそうですね…」
ざっと目を通してみて、資産や数値は偽りなくきちんと申告されていることが見て取れた。しかし申請書の審査欄には、はっきりと不認可の文字が。
「不認可事由は…『申告内容に疑義の点あり』。」
しかしその疑義の点というのが具体的に何であるのかについては、一切書かれていなかった。俺はその点について、トーマさんに確認する。
「トーマ支局長。疑義たる具体的な事由を明記せずに不認可の判断を下すことは、ルール上認められるのですか?」
俺の疑問にトーマさんは、大きく首を横に振って答える。
「…きちんと審査をした上での不認可ならば、該当事由を詳細に記載しなければなりません。この審査はそれがなされていないだけでも問題ですが、それよりも問題なのは…」
トーマさんは資料のある点を指さす。そこには担当者のサイン欄と、支局長のサイン欄があった。
「…この申請書、担当のキールが審査をしておきながら、私の元まで上がってきていないのです」
トーマさんの言う通り、担当者欄にキールのサインはあるものの、支局長欄にトーマさんのサインがない。
「…つまりキールさんが、トーマ支局長に話を通さず独断的に申請を握りつぶした、と?」
「…恥ずかしながら、そのように考えられます…」
「…」
ひとまず、俺は状況を整理する。この時点でキールをつめることは可能ではあるものの、正直これだけでは奴への処分も軽いだろう…
そして同時に俺は、動機についても考察する。かつてヤシダが独断的に申請を不認可としたのには、利益を自分の懐へ入れるためという確かな動機があった。今回のキールの行動にも、それ相応の理由があるはず。ただ彼女に嫌がらせをしたいという理由なら、他にもっとやりようがあるはずだ。…もしかしたら、ヤシダと同じ理由だろうか?
「…トーマ支局長、キールさんは他の申請者に対してはどのような対応を?…もしかしたら他にも、独断的に審査をしているものがあるのでは?」
トーマさんはうなずき、俺の言葉に冷静に返事をする。
「実は私も先ほど同じことを考え、探してみました。…ところが、彼が独断的に不認可の判断をしたのは、どうやらこの一件だけのようなのです…」
「そうですか…」
であれば、目的はヤシダとは異なりそうだ…前回の時とは違う視点で、奴の目的を追わなくてはならない。
「ちなみに、キールさんはどこに向かったんですか?」
俺のその質問に、トーマさんは一間おいて答えた。
「…民生局中央部、いわゆる中央民生局です」
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