第22話
さて、キールを追求するためにも、まずは情報収集だ。
「トーマ支局長。実は彼女は、前にもこちらで保護給付の申請をしているんです」
彼女は俺に頷き、同意の意を示してくれる。
「そ、そうでしたか…」
彼の反応を見るに、その事実は知らなさそうだった。
「当時から彼女は、保護を受けるには十分の条件を満たしていました。しかし当時の担当者の判断で、保護は不認可となりました」
俺が何を言いたいのか、彼はもう察しているようだった。
「ですので、当時の申請資料を見せて頂きたい。これは他でもない、支局長たるトーマさんにしか頼めません」
「…」
腕を組み、考える姿勢をとるトーマさん。いくら本人が申請した物とは言っても、提出した以上は民生局側の保有物となる。彼が俺たちに協力の意を示してくれるかどうか、俺たちは彼の言葉を待った。
「…分かりました。お持ちいたしましょう」
彼のその言葉に、驚きの表情を浮かべるユキさん。
「ど、どうして…貴方たちにとっては、何のメリットも…」
彼女の言う通り、民生局側にとってメリットはないはず。…しかし俺には、彼がなぜ俺たちに協力してくれる姿勢を見せてくれるのか、分かる気がした。
「…民生局とは文字通り、民の生活を死守することを生業とする組織です」
それは俺が前にゴミ山で読んだ、民生局の基本理念だ。
「過去にもしも民生局が間違った判断をしていて、それによって救えるはずの人を救えなかったのなら、我々は大いに反省をしなければなりません。…同じことを繰り返さないためにも、決して目を背けてはならないのです」
力強く、勇ましくそう主張する支局長。ハワーさんやトーマさんのような人格者がいることが、民生局にとって何よりの宝であろう。
「では私は資料を取ってまいりますので、こちらで少々お待ちください」
そう言葉を残し、支局長室を後にするトーマさん。一瞬開いた時に見えた扉の奥には、何人かの局員が働く姿があった。…その姿を見て、俺はどこか違和感を感じる。
…ここの民生局員はまだみんな働いてる時間だ…なのに、あいつはどこに向かったんだ…?
民生局はその性質上、外部の人を迎えることは多いだろうが、自らがどこかに赴くことは少ないはず…もし行くにしても、代表である支局長が向かうのが普通だよな…
「…いるものなのですね…民生局にも、あんな人たちが…」
考えにふける俺の横で、不意にそうつぶやくユキさん。彼女の方に視線を移すと、彼女もまたこちらに視線を向ける。
「ハワーさんに、トーマさん…私もはじめからあの人たちに相談できていれば、結果は変わっていたのかも知れませんね…」
どこか切なそうにそうこぼす彼女に、俺は反射的に言葉をかける。
「大丈夫ですよ、ユキさん。今からだって変えられます。こうして、出会えたんですから」
俺はできるだけ、笑顔を浮かべて優しく言ったつもり…だ。慣れてないから彼女にきちんと伝わったかは分からないけど、どこか暖かそうな彼女の表情を見るに、きっと伝わったんだと…思う。
そうこうしていると、トーマさんが資料を手に支局長室へと戻ってきた。
「お待たせしました、こちらになります」
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