第21話
「ユキさん、落ち着きました?」
彼女はしばらくの間俺の胸で涙を流していたものの、時間がたったおかげか、少し落ち着きを取り戻している様子だった。
「はい…取り乱してしまって、本当にごめんなさい…」
申し訳なさそうに、頭を下げる彼女。俺は反射的に、彼女に言葉をかける。
「謝らないでください!ユキさんはすごかったですよ!」
「?」
俺の言った言葉の意味が、よくわからないといった表情を浮かべる彼女。
「あんなに憎たらしくて、誰だって手を出してしまいたくなるような男を相手に、ユキさんは最後までそうしなかったじゃないですか!あなたは冷静だった!」
「…私が、冷静?」
そう。彼女は感情的になっているようにこそ見えたが、その実はしっかり俺の制止の言葉を冷静に聞いていてくれたんだ。
「だから、謝る必要なんて全くないんですよ、ユキさん」
俺の言葉を聞いて、どこか嬉しそうな、切なそうな表情を浮かべる彼女。
「…ツカサさんは、お優しいのですね…」
…そんなこと言われ慣れていない俺は、咄嗟に否定の言葉を並べる。
「い、いえ、俺なんて全然…」
ほ、ほんとに俺はそんなんじゃ…俺はただ、思ったことをそのまま言っただけ…
ユキさんの言葉になんだかこっぱずかしくなってしまった俺は、彼女から民生局の方へと視線を変え、再び出発の準備に移る。
「い、行きましょう。邪魔者もいなくなったことですし…!」
「はい、そうですね♪」
そんな俺の姿がおかしいのか、少し笑みを浮かべる彼女。…俺はできるだけ彼女を意識しないように、急ぎ足で局へと向かった。
「すみません、トーマ支局長を呼んでいただけますか?」
ハワー支局長が事前に話を通しておいてくれたおかげで、スムーズにトーマ支局長に会うことができた。
「はじめまして。ハワーから話は伺ってます。…えっと、ツカサさんと、ユキさんですね?」
簡単にお互いの確認をした後、俺たちは支局長室へと通される。椅子に腰かけるなり、俺は早速本題を話す。
「まずは、ユキさんに保護給付の認可をお願いしたいのですが」
これは事前にハワー支局長が話していてくれていたようで、トーマ支局長は迅速な対応をしてくれる。
「承知しました。それでは、こちらの資料にご記入を…」
彼が資料を取り出すのを、俺は遮る。
「恐れながら、事前にこちらで用意してまいりました」
そう言って資料を提示する俺の姿を、驚きの表情で見つめる二人。
「こ、これはこれはありがとうございます…えーっと…」
俺から受け取った資料の内容に、ひとつひとつ目を通していく支局長。その時、横に座るユキさんが小さく俺に声をかける。
「…ツ、ツカサさんったらいつのまに…?」
ここに来て記入するのもなかなか時間がかかるので、昨日のうちに準備しておいたのだ。…こんな簡単な事だって、前の俺なら絶対にできていない事だろうな…
「本当に、手際が良いのですね♪」
…なんだか、ご機嫌な様子のユキさん。そんな彼女の姿にやや戸惑いを覚えていた時、資料に目を通し終わったらしい支局長が口を開く。
「実に明瞭に書かれている、見事な申請資料ですね!何の問題もなく、認可させていただきます!」
「…す、すごい…こんなにスムーズに…」
驚きの表情を浮かべる彼女をよそに、ひとまずはほっとする俺。とりあえず、最初の課題はクリアだ。…さて、次からが本題だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます