第20話

「じゃあ、作戦通りに」


「「了解」」


 その掛け声とともに、俺たちは互いの目的地を目指す。まず俺とユキさんの二人で、先日話した通り隣町の民生局へ向かう。ひとまずは敵情視察ってやつだ。そしてテルナとミリアナの二人には、こちらの民生局の見張りを頼んだ。支局長は何も知らないとは言っていたものの、黒幕の方から支局長へ何か動きを見せる可能性があるからだ。…とはいっても今の段階でその可能性はかなり低いため、二人にとっては暇な見張りになってしまうだろうが…


「…ユキさん、大丈夫ですか?」


 …隣町は、かつて彼女の鉱石商があった町だ。近隣の風景を見るだけでも当時の思い出がよみがえり、つらい思いをさせてしまうだろう…

 しかし俺のそんな心配をよそに、彼女は俺の不安を吹き飛ばすような笑顔で返事をする。


「大丈夫ですよ。私には、ツカサさんがいますから」


 …どうやら俺は、彼女の覚悟を甘く見ていたらしい。俺の心配なんて必要ないほどに、彼女の腹のうちはもう決まっているようだ。


「…あの角を曲がれば、民生局です」


 いよいよ目的地に近づいていたその時、とんでもない事態が起きてしまう。


「…おい。お前、ユキじゃないか?」


 …横をすれ違った男がこちらに振り返り、ユキさんに言葉をかける。俺は彼女の知り合いなのかと思い、彼女の方に視線を移す…しかし彼女の顔には、恐怖とも怒りともとれる表情が浮かんでいた。

 趣味の悪いネックレスをジャラジャラと鳴らしながら、その男はこちらに歩み寄り、続けて声を上げる。


「はははっ!やっぱりユキじゃないか!旦那がくたばったかと思ったら、もう新しい男作ってんのかよ!ったくお前もやる女だねえ」


「…!!!」


 ユキさんの表情が、ますます怒りの感情で満たされていく。そのやり取りを聞いた俺は本能的に察した。この男、間違いなく…


「…キール…あなたって男は…!!!!」


 感情を爆発させようとする彼女の肩をつかみ、今はなんとかこらえるよう小さく伝える。俺は彼女の前に出て、その男に言葉を投げる。


「あなたがキールさんですか。最初に言っておきますが、俺は別にユキさんとそういう関係なわけじゃありませんよ」


 俺の言葉など何のその、と言った表情で返事をするキール。


「なんだやっぱりそうか。いかにも顔も頭も悪そうな、魅力のかけらもなさそうなこんな男が、お前のいい人なわけがねえかぁ」


 その言葉に、ユキさんが爆発寸前になる。


「なんなら、俺の女になるか?お前体だけは一流なんだから、そいつと一緒にいるよりはいい思いさせてやれると思うぜ?くくくっ」


「っ!!!!」


 ついにキールに殴り掛かりそうになる彼女の体をなんとか止め、静かに彼女に告げる。


「ユキさん、お願いです、今はこらえて…」


 言いたい放題言い放ち、ようやくキールは満足したのか、俺たちに背を向ける。しかし最後に、捨て台詞を吐く。


「まあ、考えておいてくれや。くくくっ」


 …キールが去っていき、重い沈黙が俺たち二人を包む。


「…う…うう…」


 …苦しそうに嗚咽を漏らす彼女に俺は、自分の胸を貸すことしかできなかった。

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