第17話

「まずは、そっちの件から当たった方がいいかもしれませんね」


 民生局の詐欺まがいな行為の正体を暴く前に、彼女の給付の問題を先に解決するべきだろう。それを進めるうえで、なにか新たな手掛かりが得られるかもしれない。…何よりも、彼女にそんな酷い暴言を吐いた輩を、このまま許しておくわけにはいかない。


「ユキさん、申請はどちらの局で?」


 支局長がユキさんを知らないという事は、ユキさんはここ以外の局で申請したのだろう。


「…隣町の民生局です。…担当は確か、キールという男でした…」


 隣町となると、話ができそうな人間はいないか…そう考えていた俺に、ハワー支局長が意外な言葉をかけてくれる。


「隣町の民生局支局長は、私の同期なんです。私が話をすれば、きっと協力してくれるかと!」


 それは願ってもないことだ。俺はさっそく、支局長に協力を依頼することにした。支局長の方も、これまでの会話の中で何も力になれなかった自分を悔やんでいたのだろう。彼は心から嬉しそうに協力してくれると言ってくれた。


「…」


 しかしそんな支局長の姿を見ても、どうしても不信感がぬぐえないのか、暗い表情のままのユキさん。俺は彼女の顔を見ながら、落ち着いて語りかける。


「…ユキさん。あなたたちの事を苦しめた黒幕は、今もどこかで平気な顔をして、のびのびと生きている事でしょう。俺はそいつの事が、絶対に許せません」


「…」


 ユキさんは言葉こそ発しなかったものの、目で同調の意思を伝えてくれる。


「しかし敵はきっと、簡単に倒せるような相手ではないはず。…もしかしたら、またあなたに卑劣な攻撃を仕掛けてくるかもしれません」


「…」


 目を閉じ、俺の話を落ち着いて聴いてくれている。


「…ですが、俺は必ずや黒幕の存在をあぶりだして、地獄に叩き落して見せます。ほかならぬ、あなたと旦那さんの仇のために…ですからどうか、俺の事を信じてほしい。俺と一緒に戦ってほしい」


「っふふっ」


 決意表明をした俺の表情を見て、少し笑顔になるユキさん。俺はさっぱり彼女の心境が分からず、硬直してしまう。


「ご、ごめんなさい…あなたが、夫に似ていたものだから…」

 

 うっすら瞳に涙を浮かべながら、そう漏らす彼女。しかし次の瞬間には、その表情は凛々しいものへと変貌していた。


「おかげで、私も覚悟が決まりました。…もとより民生局と心中しようと考えていた私です。今更覚悟を決めるというのも、おかしな話かもしれませんが…」


 自嘲気味に苦笑いを浮かべながら、ユキさんはそう言った。俺は彼女の言葉に強くうなずき、返答した。


「まずは、そのキールという男のところへ乗り込みましょう!」

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