第16話

「こ、これはこれはツカサさん。今日はどうされました?」


「ご多忙中に申し訳ありません、支局長」


 俺はユキさんを連れ、民生局に足を運んだ。給付認可のお礼を言いに来たのに加えて、例の件についての情報収集のためだ。支局長室に通されるなり、俺はユキさんの事情について支局長に話し、何か知っていることはないかと尋ねた。…ところが支局長は、全く話が飲み込めていない様子だった。


「し、信じられません…我が民生局がそんなことを…」


「し、信じられないって…あなたたち民生局が私たちにした事じゃないですか!!」


 ハワー支局長の言葉に、感情が爆発するユキさん。…彼が信頼できる人物だという事はもちろん事前に彼女に話してはいたが、やはりいきなり信用しろという方が無理な話だったか…

 俺はユキさんをなだめつつ、冷静に支局長に言葉を発する。


「それで支局長、何か知っていることがあれば、是非教えていただきたいのです」


 俺はそう訴えるものの、支局長の顔色はかんばしくない。


「も、申し訳ない…そんな事があったという事すら、私には信じられないのです…お役に立ちそうな情報は、何も…」


「そうですか…」


 …支局長に話せばすべて解決、などとは初めから思ってはいなかったものの、ここまで収穫がないと正直こたえる。どうしたものかと考える俺の横で、ユキさんがぼそっとつぶやく。


「…無駄ですよ、ツカサさん…結局民生局は、私たちの味方になったりはしてくれません…」


「…」


 その言葉を聞いて、目に見えて落ち込んでしまう支局長。…しかし俺は、その彼女の言葉のどこかに引っ掛かりを感じた。


「…もしかしてユキさん、他にも民生局と何かあったんですか?」


「…」


 一瞬の沈黙をはさんで、俺に頷く彼女。


「…実は以前、生活が本当に苦しくなった時、民生局に保護給付を申請しに行った事があったんです…」


 それは初耳だった。彼女もミリアナたちと同じく、給付申請の経験者だったとは。


「…ですが結局、給付は不認可でした…お前たちのような無能に、くれてやる金なんて一円もないって…何度お願いに行っても、態度も言葉もひどくなる一方で…」


「あ…ああ…」


 彼女の壮絶な経験を聞いた支局長は、両膝を床に付き、半ば土下座のような姿勢をとる。その異様な雰囲気に、俺もユキさんもくぎ付けとなる。


「…我々民生局があなたたち夫婦にした事…局を代表してお詫びいたします…本当に…本当に申し訳ありませんでした!!!」


 額が床についてしまいそうなほど、深々と謝罪をする支局長。…彼は何も悪くないというのに、何故彼がここれほまでに謝る必要があるのか…


「…もう、いいですから…支局長…」


 弱弱しい声で、ユキさんは支局長に告げる。…この二人がこうなってしまった裏には、必ず黒幕がいるはずだ。俺は今日のこの光景を目に焼き付け、黒幕たる者にこれかこれ以上の苦しみを与えてやることを、心に誓った。

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