第13話
「お願いします!!!助けてください!!!」
突然小屋を訪ねてきた女性が、俺の姿を見るなりそう訴える。
「お、落ち着いてください…一体何が…」
その女性は両目に涙をためながら、すすり泣く声で説明を始めた。
彼女の名前はユキと言い、この近くで夫と二人で暮らしていたらしい。夫は鉱石商を経営していたが、最近はすっかり経営難に陥ってしまい、夫婦ともに苦しい生活を送っていたそうだ。いろいろな機関や組織に援助の申し出をしたものの、結局誰も助けの手を出すことはなかった。いよいよ後がなくなってきていたそんなある日の事、突然民生局から連絡があり、夫の鉱石商を援助したいと申し出てきたそうだ。
「…民生局の方から援助の申し出が?…それはなにか妙ですね…」
今回の一件ですっかりこの国の社会関連の知識に詳しくなってしまっていた俺は、早速話に違和感を覚える。違和感を感じていたのは彼女の方も同じだったようだ。
「…今冷静になって考えてみれば、確かに怪しかった…ですがあの時の私たちは、もう後がありませんでした…結局すがるように、その援助を受けることに決めたのです…」
そう言い、俯いてしまうユキさん。その話を後ろで聞いていた二人のうち、ミリアナが俺に疑問を投げる。
「ねえツカサ、いったい何が妙だというの?」
その横で聞くテルナも、同じ疑問を抱えているようだ。俺は二人に説明を始める。
「二人も知ってると思うけど、民生局って言うのは字の通り、民の生活に関わることを生業とする組織なんだ。生活が苦しいこの二人に援助の話を持ってくるのなら分かるけど、つぶれかけているお店の方に援助の申し出をしてくるなんて、何か妙なんだ」
「い、言われてみれば確かに…」
「な、なるほどです…」
俺の説明に、納得してくれた様子の二人。
「それで、その後はどうなったんですか?」
俺は話を戻し、彼女の言葉を待つ。
「…民生局からの申し出は、無利子での融資を約束する代わりに、夫の見つけたある新種の鉱石を譲渡してほしいと…」
彼女の口から出てきた意外な言葉に、少し驚きを覚える。
「新種の鉱石、ですか?」
「はい…新種ではありましたが、一円にもならない鉱石でしたので、私たちは民生局の提案に乗ることに決めたのです…ですが…」
そこで言葉に詰まり、嗚咽を漏らすユキさん。後ろに座っていたテルナがハンカチを取り出し、彼女の涙をやさしくぬぐう。
「あ、ありがとう…」
彼女は何度か深呼吸をして、落ち着きをつりもどしてから、再び話を始める。
「…結局、民生局から融資なんて、一円も実行されませんでした…それどころか、新種の鉱石だけを一方的に奪って行って、後になってからそんな約束なんてしていないと言い出したんですっ!!」
彼女は先ほどまでの悲しみの表情から、怒りと憎しみの表情へと変わっていた。
民生局に融資の権限などないはずだ。ゆえに彼らはそれを言い訳に、融資を実行しなかったんだろう。結局は、彼女たちが新種の鉱石を一方的に民生局に譲ったという形だけが残った…という事か。
俺は努めて冷静に、彼女に話しかける。
「…それで今は、旦那さんと二人で?」
「…」
彼女の表情が、再び悲しみで満たされる。…彼女はゆっくりと重々しく、その口を開いた。
「…夫は…もう死にました…あのの一件を苦にして…みずから…」
「っ…!」
「えっ…」
「そ、そんな…」
俺たち三人が三様の反応をしていると、彼女は今までで最も感情的に話を始める。
「…遺書には、君を守れなくてごめんね、君を幸せにしてあげられなくてごめんね、…死んでも、君を愛しているからね…と…」
「…それで、夫の仇である民生局に行ったんです!!…もう連中を殺して、私も死んでやろうと思ったから…!」
悲しみと怒りが入り混じったような表情で、彼女は続ける。
「そうしたら、理不尽な局員と戦うあなたたちの姿を見たんです…」
…そうか、彼女はあの場にいて、俺たちがヤシダと戦っている姿を見たのか…
「あなたたちなら、夫の仇をとってくれるんじゃないかと、そう思って…私は…私は…!!」
うなだれ泣き始める彼女を、テルナが優しく胸に抱く。その悲痛な鳴き声は、俺が次にやるべきことを決めるには充分であった。
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