第11話

「かんぱあーい!!!」


「か、かんぱーい…」


 小屋に戻り、早速祝杯を挙げる俺たち。二人は心の底から楽しんでいる様子だけれど、こういう雰囲気に慣れない俺はいまいちついていけていない…


「ツカサお兄さん!!すっごくかっこよかった!!」


 持っていたジュースを一気に飲み干し、嬉しそうにそう言うテルナ。


「ほんと!か、かっこよかった、わよ?」


 少し頬を赤くしながら、そう言葉を投げるミリアナ。


「い、いや、運が良かっただけだよ…」


 実際あのじいさんが情報をくれなかったら、ヤシダを追い落とすことまではできなかっただろう。


「なに謙遜してんのよ!ツカサのおかげで、私たち助かったんだから!」


「…」


 そう言ってくれたミリアナを、無言で見つめ返す俺。しばらくそうしていると、彼女は顔を赤くして怒り始める。


「な、なによ!あんまりじろじろみないでってば!」


「あ、ああ、ごめんごめん」


 …思い返せば、こうしてまともに女の子と話をするなんていつ以来だろうか?記憶をたどれる限りたどっても、思い当たるものが全くない。…もしかしたらこれは、俺が死ぬ間際の妄想だったりするんだろうか…?

 それと同時に、一つの考えが頭をよぎった。給付が決まったとはいっても、もらえるのはきっと二人分だ。つまり俺がこのままここにいたら、二人分の食料や飲み物を三人で分けなければならなくなる。…果たして、本当にそれでいいんだろうか…?


「…お兄さん、大丈夫?」


 考え込む俺の表情を心配してか、テルナが優しく声をかけてくれる。…せっかくの明るい雰囲気を壊してしまうかもしれないが、この二人のためにも話しておくべきだろう。


「…実は俺、給付が正式に決まったら、ここを出ていこうと思ってるんだ」


「!?」


「!?」


 途端、それまで明るかった二人の表情が凍り付く。俺は淡々と、理由を説明する。


「…給付はおそらく、二人分だろう。それなのに俺がここに居続けたら、二人の負担になってしまう…それは嫌なんだ、だから、」


「ばかにしないで!!」


 俺の言葉を強い口調で遮ったのは、ミリアナだった。


「前にも言ったでしょ?あなたはもう立派な私たちの家族なの!…家計が苦しいからって、家族を追い出す家がどこにあるって言うのよ!?」 


「ミリアナ…」


 そのミリアナの言葉に、テルナも続く。


「そうだよ!せっかく家族になれたのに、もうお別れなんて嫌だよ…!」


 …俺は軽はずみな自分の考えを悔いた。これまでろくに相手の気持ちを考えて気もしなかったためか、結果的に二人を傷つけてしまう形になってしまった…


「…ありがとう、二人とも…!これからよろしくな!」


 俺の言葉に二人は笑顔で返事をしてくれた。その後の祝賀会は、一段と盛り上がったのだった。

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