第6話

食事を終え、時間はすっかり深夜だ。この小屋はいわばワンルームで、食べるも寝るも3人一緒に過ごすことになる。俺は先に二人を寝かしつけ、寝静まった段階で静かに小屋を出発し、再びゴミ山に向かった。


「さて、本番と行きますか」


 やはり、今日の俺はついているようだ。ゴミ山には明りなど一つもないが、今日は満月。月明かりが俺の周りを的確に照らしてくれて、順調に徘徊できる。

 俺が何より探したのは、紙類だった。この世界にはきっと電子媒体なんてものはないであろうから、この世界の情報を得るには新聞や本といった紙類を探索するのが手っ取り早い。さらに嬉しいことに、召喚陣の追加効果である言語理解は、この世界のすべての言語に対応しているらしく、明らかに字体が異なっている文章も難なく読み進めることができた。


「お、早速いいもの発見!」


 なにやらかなり分厚い本を発見する。パラパラと中身を見た感じでは、イラストなどが描かれておらず、すべて文章のようだ。おそらくこの手の本は、法律書なり法規書なりといった、いわばルールブックだろう。俺はさっそく内容に目を通す。


「…王国憲法…王位典範…」


 予想通りだ。…まだ新しいこれが捨てられてしまっているという事は、おそらく憲法が改正されるなりの事が起こって、古いものがいらなくなったから、だろうか。

 内容が変わってしまっている可能性はあるものの、大筋はこの本が通用するはず。俺はさっそく目的の個所を探し出す。


「…二人は確か、保護給付って言ってたよな…」


 保護給付、保護給付…見つけた!


「なになに…著しく生活に困窮する王国国民はすべて例外なく、王の名のもとに保護給付を受ける権利を有する…」


 …随分とあいまいな記述だな…現実的にどのような人物が対象で、どれだけの期間、どれだけのものを与えられるのか、具体的な記述が全くない。…おそらく詳しく記述してしまうと、後からトラブルになりかねないから、わざとこんなあいまいな記述にしているんだろう…全く政治家というものはどの世界でも…ん?まてよ?


「…この王国の政治のシステムは、一体どうなっているんだろうか…?」


 俺は一旦保護給付の記載がされたページにしおりを挟み、王位典範の記載の方にページを動かす。内容を眺め初めてすぐ、あることに気づく。


「…王国国民は、政治に参加できないのか…」


 この王国の政治ステムはこうだ。まず王国の頂点に君臨するのはもちろん、国王だ。そしてその子どもが皇太子。この二人、及びその親族たちは、王国内でも屈指の権力を掌握しているらしい。しかし絶対王政というわけではなく、担当部門をある程度細分化し、現実的には権限を分散しているようだ。

 例を挙げれば、二人が保護給付をあしらわれたのは民生局という部署らしい。保護給付の決定に関して、最終権限は国王やその親族にはあるものの、いちいちそれらすべてに対応するのは現実的に不可能であるため、民生局の局長にその権限は委託されている、というのが実情のようだ。


「…これは朗報だ。おかげでわざわざ国王のいる王宮まで乗り込む必要はなさそうだ」


 俺が叩くべきは、民生局に決まった。そしてそれを実行するため、俺は朝まで民生局に関する情報を探し回ったのだった。

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