術を知らぬ僕らは

「だあーっ! やっぱ無理」


 どろどろのキスをした。首筋に顔をうずめた。口づけて、舐めた。シャツの中に手をいれて、チェックのズボンのベルトをゆるめた。

 肩に置かれていた手に力がはいったなとおもったら、ぐっと押されて、眉間に力いっぱい皺を寄せた佐竹と目があって泣きそうになった。佐竹の体は、俺に気取られないようにとちいさくふるえてた。


「つきあったらさ、セックスって絶対しなきゃなんねーの」


 いや、泣いた。ぼろりと落ちた涙が、佐竹の焼けた肌にのっかった。

 あーもう、と眉をさげた佐竹はこまったように笑って、きれいな手で俺の目をごしごしとこする。それから、ベッドにもたれていた体をすこしおこして、俺の頭をつつむようにだきしめた。肺いっぱいに佐竹のにおいが入ってきて、胸が握り締められるような感じがした。


「俺は朝倉のことめっちゃすき。なあ、これ、ヤんなきゃつたわんない」


 佐竹のかなしそうな声がぼやけた耳に落ちてきて、俺の胸に入ってる大事なものが完全に潰れた。


 佐竹はセックスができない。

 そのことを俺に相談してきたのは、きっと俺が佐竹にとってちかくてとおい存在だったからだろう。

 中学のときはいつもつるんでいるなかのひとりだった。でも高校は別々で佐竹はチェックのズボン、俺は中学のときのズボンが丈たらずになっている。特に一対一で仲のいい間柄ではなかった。そのままでいたかった。俺は佐竹がすきだった。

 相談をされてから、お互いの距離は縮まっていった。はなしをきいて、いっしょに悩んで、はげまして、頭をなでて、だきしめて、それを利用して思いを告げた。


 すべてを知っているのに、俺は佐竹の体をもとめる。こころだけじゃたりないと。男同士だから異性愛者のように人前でいちゃつけないだから確かなつながりがほしい、なんてもっともな理由なんかつけて。


「朝倉がヤりたいっていうなら、してやりたい」


 佐竹にこんなことまでいわせて。


「でもさ、やっぱ無理なんだ」


 頭をつつんでいた佐竹の腕がほどけた。顔をあげたら佐竹の泣きそうな笑顔と目があった。


「待っててくれても、一生できねーかも」


 ヤらせくれない女とは付き合っている意味はないだからわかれる。そういっていた友人の下品な顔。なんでさわってくれないのわたしのことすきじゃないのしんじられない。そんなことばにさげられた佐竹のほそい眉。


「それでも、」

「それでも、俺は佐竹がすきだよ」


 俺のせいでさがった眉。それにちいさく口づける。


「ごめん」


 ごめん、ごめん。ぽろぽろとことばがこぼれる。それをいわなきゃいけないのは俺なのに。遮るためにキスをする。それからぎゅっとだきしめた。

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