夏いね

 俺ね、今あれされてる。あれ。友人にね、押し倒されてる。

 まあ、押し倒されてるんだけだったらいいとしよう。いろいろハプニングとかアクシデント的なものもあるわけだし。実際、友人が飲み物をとりにいこうと立ちあがったのにつられて、あっつい部屋のなかで勉強してて頭も体もまいっちまってた俺が立ったのと同時にぶっ倒れたのが原因なわけで、でもあれだ。首に鼻すりつけてハスハスするのはやめてほしい。なんかいたたまれない気分になる。絶対汗臭いし、やめれ。


 正直いうと知ってた。こいつが俺のことそういう目でみてたって。なんつーか、バレバレだったから。でも本人も隠してたみたいだし、いわれるまで気にしなけりゃいいかと思ってた。そうだよ、お前隠してたじゃん。なにやってんの。そんなハスハスしたらバレるよ。あつさで頭いっちゃったの。

 左の肩口に顔を埋められてるものだから、ふわふわの猫っ毛が首とか頬とか鼻にあたってこしょばゆい。あれ、こないだまでミルクティっぽかったのにいつのまにか赤毛になってる。なんでこんなにキューティクルいじめぬいてるのにさらさらなの、むかつく。今俺の視界にあるのは、さらさらの赤毛と汗ですこし透けた白いシャツ。右へ視線をずらしたら、頭のすぐ横につかれた腕に玉みたいな汗が浮かんでいるのがみえた。俺の腹とこいつの胸のあたりがひっついてるところがあつい。くっそあつい。


「相良、あちいよ」


 俺の声におおきく肩をゆらした相良は静かになった。それをこそ息もしてねーんじゃねえのってくらい。やっと正気になったか、と思ったら首につめたいものが落ちてきた。相良のでっかい背中がぷるぷるふるえてる。あーあー。猫っ毛に指を絡めてくしゃっとにぎってから頭をなでてやると、嗚咽をもらしはじめた。あーもーしょうがねえやつだな。ゆっくりゆっくりなんべんもなでてやる。


「相良さ、俺にいうことあるだろ」


 ぐしぐしっと鼻をすすりだした相良の肩を押しあげて、視線をあわせる。顔と目をまっ赤にした相良からぼたぼたと涙が落ちてきた。顔も目も髪もおんなじ色。思わず笑っちまったら、さらに赤くなった。夕陽が窓からはいってくる。いつのまにこんな時間になったんだか。まっ赤で、すげえあちい。

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