第17話:マッドオーガ


 二人が通路を駆ける。


「走りながら聞くけど、ルミネは魔術師なんだよね!?」

「はい! といっても、初級魔術しか使えません!」

「分かった! というか僕も実は誰かと組んで戦うの初めてだから……」


 その場の勢いでパーティを組もうと提案したものの、よくよく考えると、魔術師の味方との連携なんて全く分からないということに今さら気付いたフィリだった。


「私も初級魔術しか使えませんが……多分大丈夫です。フィリさんは好きに動いてください」

「ほんと? じゃあそうする」


 ルミネは考えていた。なぜ自分は追放されてしまったのかを。確かに自分は、事前に魔術師として弱いと伝えた。だけどそれに甘えて、どこかで頑張らなくても大丈夫、先輩冒険者達が何とかしてくれる……そう考えていた。


 結果パーティメンバーは死に、追放された。そして自分の命まで落としかけた。


 だから前を走るフィリを見て、ルミネは少しだけ悔しかった。自分とさして歳の変わらない少年が、この危険な場所で一人余裕そうにしていたことが。


 だからパーティを組もうと言われて、嬉しかったと同時に、負けたくないと思ってしまったのだ。


 元来、負けず嫌いなルミネの心に――火が付いたのだった。


 そして不思議と、それは怖くて仕方なかったはずの自分を奮い立たせてくれた。


「っ! ここだよルミネ!」


 通路の先は、ちょっとした広い空間になっていた。


「た、助けてくれ……ぎゃああ!!」


 ルミネが見ると、そこには足が潰されて立てない、あの槍士が倒れていた。見れば他のメンバーも転がっているが、どれも頭が潰れていて、生きていそうにない。



「そんな……!」

「ルミネ。落ち着いて。あれを――」


 フィリが冷静に短剣を向けた先。そこには――


「ふしゅううううう。ウガアアアアアアアア!!」


 三メートルはある巨大な体躯の化け物が立っていた。筋肉質の身体で、身体中の血管が浮き出ていて、右手には棍棒。左手には巨大な斧を握っていた。その頭には角が生えており、口からは長い牙が生えていた。


 その怪物は雄叫びと共に棍棒を振り下ろし、槍士の頭部を破壊した。


 肉の潰れる嫌な音が響く。


「ああ!! なんてことを…」

「遅かった……もっと早く来ていれば……」

「私のせいだ…」

「ルミネ、気持ちは分かるけど、今は目の前のことを考えよう。あれが何か分かる?」


 ショックを受けているルミネの肩をフィリが揺らした。


「あれは……オーガですが……様子がおかしいです」


 オーガがゴブリンに使役されていることは良くあるが、目の前のオーガはそれらとは少し様子が違うようにルミネには見えた。


 目の前のオーガは赤いオーラのような物に覆われており、何よりその顔は苦しそうだった。良く見れば口の端から泡を吹いており、今にも倒れそうな顔をしている。


「あれがオーガか。強そうだね」

「油断しないでください。おそらく何かしらの細工を施されています」

「うん。それに、ほら――奥にいるよ」


 フィルの目はそのオーガの奥にいる小さな存在を見逃さなかった。


 それはゴブリンだが、何かの骨のような者を被っており、手には骨を組み合わせて作った杖を持っていた。


「あ、あれはゴブリンシャーマンです! 討伐依頼対象ですよ!」

「そうなんだ。あいつがなんか悪さしてそう――っ!! ルミネ!」


 それは一瞬の出来事だった。オーガが床を蹴った瞬間、加速。その速度は尋常ではなく、フィリの目を持ってしてもギリギリ見えたほどである。


 気付けばその棍棒はフィリとルミネをまとめて薙ぎ払おうとしていた。


「くっ!!」


 フィリが突き飛ばしたおかげで、その範囲内から逃れることが出来たルミネだったが、


「フィリさん!!」


 直撃したフィリの身体はあっけなく吹っ飛び、壁に激突。粉塵が舞い上がると同時に、どさりと何かが床に落ちる音が響いた。


「そんな……」

「お前らもアイツの仲間か!? くそ、殺してやる!!」


 ゴブリンシャーマンがなぜか憎悪と共に杖をルミネへと向けた。


「フシャアアアアア!!」


 オーガの棍棒が――ルミネへと振り下ろされた。

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