スキル【守護霊獣】が過保護すぎる件 ~無能はいらないと追放されたら、何もしてないのに勝手にそのパーティが崩壊した。君は何もしてないよね守護霊獣さん?「もふ!? コンコン!(な、なんのことかな!?)~
第15話:地獄で笑ったのは……(メインヒロイン視点)
第15話:地獄で笑ったのは……(メインヒロイン視点)
エーディアル王国、第二の都市インティスより西方――〝ゴブリンの崖砦〟
崖の中にアリの巣のように張り巡らされた通路のどこか。
濃厚な血と死の臭いが充満するその通路で、低い、感情を押し殺したような声が響いた。
「悪いけど……あんたはうちのパーティから追放ね。もうこれ以上は庇えない」
「そ、そんな……せ、せめて街までは待ってください!」
そう悲痛そうな声を出したのは、くせ毛なのかあちこちに飛び跳ねている金色の長い髪に魔術師用のローブを着た少女だった。紫色の目はくりくりと大きく、小動物のような可愛らしい顔であるが、その表情は必死だった。
周囲には、人類に敵対している亜人種であるゴブリンの死体が散乱している。
「ポンコツ魔術師の世話なんてしてられるか! アダムはお前のせいで死んだんだぞ! どう責任取るんだよルミネ!!」
「そ、それは……だって初めての依頼だから無理するなって……私も勝手が分からなくて……その……」
少女――ルミネは、先端がランプになっており微かな灯りを放っている杖をぎゅっと抱き締めた。座り込んで泣いている軽戦士の男の傍らには息絶えた青年の死体があり、この空間の雰囲気をより一層重苦しくしていた。
「そうね。確かに私はそう言ったけども……」
ルミネが加入した冒険者パーティ【輪舞する剣】のリーダーである女性剣士が唇を噛みながらそう言い淀んだ。しかしルミネの顔を見て、ついに怒りが我慢の限界を超え、眉を釣り上げた。
「だって……だって貴方――〝七曜〟の魔術師なんでしょ!? なのに初級魔術しか使えないし!! 詐欺じゃないこんなの!! そりゃあ貴方Fランクなんだし!? 無理するなとは言うけどもさ!! まさかこんなに弱いなんて思わないじゃない!」
「ちゃんと言いましたよ! 〝七曜〟の肩書きは周りが勝手に言っているだけで、私は初級魔術しか使えないって!」
魔術師になるには精霊を扱う素質が必要であり、それがないと魔術は使えない。世界には七種類の精霊がいるとされ、魔術師は最低限一種類の精霊と契約を結ぶ必要があった。
そして、その結んだ精霊との契約数によって魔術師の階級は厳密に分けられている。
一つであれば――〝ソリッド〟と呼ばれ、
二つであれば――〝ジェミニ〟
三つであれば――〝サーベラス〟
一般的な魔術師は大体この辺りまで生涯を終えるという。
ただし極々一部の素質ある者は更に契約数を増やしていき――
四つ――〝
五つ――〝
六つ――〝
そして――歴史上に数人しか存在していないと言われる、全ての精霊と契約を結んだ魔術師は――〝
だからこそ、ルミネはそのあまりに自分の実力と不釣り合いな肩書きを必死に否定していたのだが……。
「うるさい!! ああもう!! どうすればいいの!! アダムとはね! ずっと前から約束していたのよ!! いつか結婚し――」
「――やめとけ。もういい、帰ろう」
泣き崩れた女剣士を見かねて、壁にもたれかかり終始無言だった槍士の男が言葉を発した。彼は槍を持ち直すと、女性剣士の肩を掴んで立ち上がらせた。
「しゃんとしろリーダー。アダムのことはもうどうしようもない。あんな魔術師を入れた俺達全員の落ち度だ」
「そんな……私は……」
ルミネは泣き崩れたいのはこっちだよ、と言いたげに泣くを我慢をしていた。
「おい、帰るぞ。これ以上の深追いは危険だ。残念ながらゴブリンシャーマンの討伐は中止せざるを得ない」
槍士の男がそう言って、座り込んでいた軽戦士へと声を掛けた。
「うううう……アダム……せめて身体を……街に……」
「無理だ。街に戻って棺担ぎの連中に迎えにこさせよう」
「くそ! なんでこんなことに!! これも全部お前が!!」
軽戦士の鬼気迫る表情に、ルミネは思わず尻餅をついてしまった。血と臓物に塗れた地面がじんわりと下着まで染み込んできて、不快感を催す。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
ルミネは顔を伏せ、そう言う他なかった。
「行くぞ。お前は……〝七曜〟なんだから一人でも大丈夫だろ? なんで本気を出さなかったのか知らんが、お前みたいな奴とはもう行動できない。Dランクのパーティではご不満ってか。くそっ!」
槍士の男がそう吐き捨てるとそのまま泣きじゃくる二人を連れて、ルミネを置いて去っていった。
「ううう……なんで……なんで!」
ルミネの嗚咽が響く。
だが、運命は非情だった。
「ゲゲゲッ!……おい、いたぞ!!」
「あん? 女しかいねえじゃねえか」
「大方逃げ失せたんだろうが……あっちにはマッドオーガ隊が待ち構えているから終わりだよ……ゲゲゲッ!」
通路の向こうから現れたのは三人の武装した、緑色の皮膚に牙の生えた顔を持つ亜人種――ゴブリンだった。
ゴブリンは種族全体として背は低いが、知能は人と変わらず、今もなお原始的な社会を形成する亜人種である。しかし、人類が彼らを敵視しているのにはいくつか理由があった。その中でも最大の理由として、彼らは同族ですら食料と見なしおり、当然人間も食料として掠っては喰らうという文化があった。
ゆえに遙か古より、人類とゴブリンは常に争ってきていたのだった。
そしてその争いは今もなお、終わる気配はない。
「ひ、ひぃ!」
ルミネがゴブリンの姿を見て恐怖する。脳裏に浮かぶのは、先ほどゴブリンの不意打ちで惨殺されたアダムの死に顔だ。
「い、いや、こないで!!」
「ゲゲゲッ! 可愛らしいお嬢ちゃん……俺達と楽しいことしようぜ」
「孕み袋にしてやるよ!!」
「でもよお……手足ぐらい……喰ってもいいだろ!? ゲゲゲッ!」
下卑た粘っこい視線を送るゴブリン達から少しでも遠ざかろうとするが――ルミネは恐怖で足が竦んで立ち上がることができなかった。手に持つランプの杖や魔術を使うという思考は既に彼女の中にはなかった。
「ゲッゲッゲッ! 若い女の太ももは美味いぞおお」
迫り来るゴブリンが持っていた血塗れの大鉈を振り上げた。
「いや……いやあああああ!!」
ルミネの悲鳴が響き渡り、そしてそれに興奮したゴブリン達は気付かなかった。
背後から迫る――小さな影に。
「ゲッゲ――ぎゃああああ!!」
大鉈を振り上げたゴブリンの腕が風切り音と共に切断。更に翻ってきた斬撃がその頭部を切り裂いた。
「て、てめえどこから来や――ひゅっ」
気付いて振り返ったゴブリンの喉笛が切られ、緑色の血が噴き出す。
「死ねええええ!!」
その隙に最後のゴブリンが持っていた錆びた剣をその影へと突き出すが――
「えっと、こうだっけ?」
そんなとぼけた声と共に、その剣は黒い短剣の
「出来た出来た。やっぱり師匠の剣よりずっと遅いや」
そんなセリフを聞きながら、剣の折れたゴブリンは、紫に光る斬閃によって頭部が真っ二つに叩き割られたのだった。
「え? え?」
何が起こった分からず混乱するルミネの前で――その小さな影は首を傾げた。
「あれ? 君は……ゴブリンじゃないよね?」
緑色の血を浴びてなお、そのハチミツ色の肌と銀髪が美しいその少年は――ニコリと笑い、ルミネにこう名乗ったのだった。
「僕は――フィリ。
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