第7話:トップオブトップ
「また武具やアイテムで困ったら来いよ!」
「はい! ありがとうございました!」
フィリが、店前まで見送ってくれたカミノへと手を振って別れを告げた。
「なんか分かんないけど……まあ良かったのかな?」
フィリはそう言いつつ、腰に差した二振りの短剣を満足そうに見つめた。結局、カミノは【フォックスイーター】を譲ってくれたのだ。
そして彼は終始こう言っていた――
「お狐様ってなんだろう……」
「コンコン」
「え? 気にしない方がいいって? うーん」
すぐ横で揺れる九尾の尻尾を見てフィリは悩むも、結局考えたところで何も分からないので、頭の片隅に留めることにした。
「さてと。じゃあ教えてもらったところへ行こうか。いくら武器が良い武器でも僕に扱える技量がないと、ただの宝の持ち腐れだ」
「コンコン!」
「ははは、頑張るよ」
フィリがやる気みなぎる顔をレギナに見せていると――
「失礼」
そう声を掛けてくる人物がいた。
「あ、はい」
「少し、お尋ねしたいのですが……」
それは貴族のような仕立ての良い服にハットを被り、手にはステッキを持った老紳士だった。
「は、はい! なんでしょうか!?」
フィリがその姿に少し緊張しながら答えると、紳士は優しい笑みを浮かべ、白い髭を撫でた。
「今、貴方が出てきたあの商店。貴方はあそこでその武具を買ったのかな? いや、冒険者の武具にしては綺麗だったもので」
老紳士の言葉に、フィリが頷いた。
「あ、はい。この鎧も短剣もそうです」
「ほうほう。中々の逸品に見受けられるが……値段は?」
「えっと……それは答えられません」
流石に前回騙されたお詫びにタダ同然で譲ってもらったとは言えなかった。しかし、その言葉に老紳士は満足そうに頷いた。
「なるほど。良い関係を結ばれている。いや、値段は些事に過ぎないのだよ。質問を変えさせていただこう。君はその買い物に――
その問いの真意は分からないフィリだったが、答えは一つだった。
「――はい! とっても!」
「良い答えだ。ありがとう。それでは――またいずれ」
そう言って、老紳士が去っていった。
「……なんだったんだろ?」
「くーん?」
「悪い人ではないって? そうだね。僕もそう思う。さて、じゃあ今度こそ行こうか――
☆☆☆
フィリ達が去ったあとの路地裏。
そこにはあの老紳士がいた。彼は壁に背を預けており、その隣に騎士のような姿をした金髪の青年が立っていた。その瞳は赤く、どこか超然とした雰囲気を漂わせていた。
老紳士が口を開く。
「例の商店だが、ひとまず様子見することにする」
「……なぜですか
「……確かにろくでもない店かもしれないが、少しだけ光が見えた」
そう言って、老紳士――冒険者ギルドの最高責任者であるギルドマスター、リンドブルムがつい先ほど会ったばかりの少年のことを思い出していた。
「またそれですか……」
「ふふふ……良い光があそこを照らしていたのだ。ならばもう少し様子を見てからでも遅くはない。人は光が差せば変われるのだ。君のようにね、Sランク冒険者のアイゼン君」
そのリンドブルムの言葉に、騎士のような青年――最高位であるSランクを持つ数少ない冒険者であるアイゼンが恥ずかしそうに手を払った。
「やめてください。まあ、ギルドマスターがそう仰るなら……仕方ありませんね」
「今年も中々に面白い新人が入ってきていて私も安心したよ。さあ、ギルドに戻ってビールでも飲もうか」
「新人? 何の話です?」
「それは勿論――秘密だよ、アイゼン君」
路地裏に風が吹き、そして誰もいなくなった。
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