第6話:フォックスイーター
「うん、いいね! いやあ、顔が整ってるから何でも似合うなあ。ただ、新人冒険者向けならやっぱり足下を重点的に……」
「くーん」
「あの……」
「いや、でもまだまだ成長期ってことを考えるとやはり魔導武具の方がサイズは合わせやすいか」
「コンコン!」
「えっと」
「むむむ……ちと予算があれだが、ええい、ままよ! フィリ君の新たな人生の門出を祝してここは目を瞑ろう! もってけ泥棒!」
「カミノさん?」
フィリはすっかり着せ替え人形となって、カミノによってあれでもないこれでもないと防具を着せられていた。それをレギナは楽しそうに見つめている。
「えっと、一万五千ゼニカを返してくれるんですよね?」
「ああ、そしてそれで最高の武器防具を見繕ってやるよ!」
フィリが、今着ている不思議な光沢を纏った金属と布を合わせた軽鎧の値札を見る限り、その値段は何度見ても五十万ゼニカを超えている。
「この鎧は見た目は普通の軽鎧だがな、なんと飛竜の甲殻を贅沢に使っているのさ! おかげで軽いわりに下手な金属素材よりも頑丈かつ柔軟だ。しかも炎や冷気、それに毒なんかも弾く優れものだぜ? 何より素晴らしいのは使い込めば込むほど、より軽く堅くなっていく点だ。魔物の素材を使っている物は魔導武具と言って、装備者の体格や実力に合わせて成長するんだ。だから背が伸びてもそのまま使えるし、もっと良い素材を手に入れたらそれを練り込んで更にパワーアップできるのさ!」
「あはは……でもこれ、とても予算内では収まらないですよね……? 武器も買わないとですし」
フィリがそう言うと、その細い両肩をカミノが掴みつつ首を横に振った。
「良いんだ。これは俺の気持ちなんだよ。これまで数々の悪行を重ねてきた俺だが、もう心を入れ替えた。そして思い出したんだ。俺は、詐欺やぼったくりをする為に商店をはじめたんじゃないってことを」
「はあ……」
いや、知らないけど……とフィリは思ったが、口にしないことにした。
「うん、やっぱりこの鎧が良い。勝手に自己修復するからメンテナンス不要で冒険者業にはぴったりだしな。よし、こいつに決定だ!」
「本当に良いんですか? まさかあとから請求してくるとか」
まだ信じ切れないフィルが疑いの眼差しを向けるが、カミノは首を横に振った。
「しない! 何なら一筆書いてもいい!」
「分かりました。じゃあ……お言葉に甘えて」
「よし、こうなったら祭りだ、とことんやろう。武器については、何か要望は?」
「武器は……故郷では短剣とか手斧ぐらいしか使ったことがなくて」
「まあ、そんなもんだよ。オススメはやっぱり汎用性が高い小剣か、盾と槍の組み合わせだが……ふうむ。フィリ君はスキルを所持しているのか?」
「はい。ただでも、戦闘には全然役に立たないスキルで……あ、でも僕にとっては凄く大事で……大好きなスキルなんです」
フィリはそう言って、レギナの頭を撫でた。彼女は嬉しそうにされるがままにしており、尻尾を揺らしていた。
「ふうむ。となると、スキルに頼らない戦い方が出来る武器だな。魔術は?」
「分かりません。たぶん、素質はないと思います」
「まあ、魔術師や回復士の素質持ちは稀だからな。足は速いか?」
「ええ。逃げ足は自信あります。身体も丈夫です。怪我もすぐに治りますし」
「なるほど……迷うな……」
そう言って、カミノがああでもないこうでもないと店内をうろうろしだした。
「武器か……何が良いのだろう」
そう思っていると、ふと目に入った物があった。それはいわゆるロングソードと呼ばれる剣で、冒険者が好んで使うとされている武器だった。
フィルは鎧の軽さに驚きながらもその棚の真ん中に飾ってあったロングソードの方へと歩こうとした時。
「あっ!」
床に散乱している防具にフィルは
金属は跳ねる大轟音が店内に響き渡った
「うわあああ!? すみません!!」
「おお!? 大丈夫か!? 怪我はねえか!?」
カミノも焦ったような声を出すが、なぜかレギナだけは平然としていた。
「は、はい大丈夫です! ってあれ……これ」
倒れた棚の上段にあった木箱らしき物が足下に落ちており、蓋が半開きになっているせいか何やら少し湾曲した刃が覗いていた。
「コンコン」
レギナがまるでそれを拾えとばかりに鼻を向ける。
「これは……」
フィリがその蓋を開けると、そこには似通ったデザインの二振りの短剣が収められていた。
両方とも共通して少し刃が湾曲していて、黒い刀身を持つ方は刃の背が
フィリはその二振りの短剣が尋常ではない武器であると、なぜか分かった。
「……そうか。そいつがあったか。棚の上の方に仕舞っちまってて、すっかり忘れていた」
棚を乗り越えてやってきたカミノがその二振りの短剣を見て、目を細めた。
「それは俺が昔、行商人をやってた時に知り合った、とある旅人と賭けをして手に入れたやつでな。材質も作者も不明だが……間違いなく大業物クラスの逸品だ」
「これは……いくらですか」
フィリは目をその二振りの短剣から離せなかった。
「そいつに値段は付けてねえんだ。なんせ賭けで手に入れたからな。そうか……それもまた運命かもな」
「どうしたんですか?」
「いや、こいつの銘を思い出したんだ」
「銘?」
「ああ。こいつは二本一組で、こう呼ばれていたそうだ――【
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