第2話:スキルの成長
夕刻。
「痛ててて……あはは……あいつが叩いてくれたのが頭で助かったよ。僕は昔から石頭で有名だからね」
『くーん……』
ガドル達が宿泊する高級宿屋の裏通りでフィリは目を覚ました。身体中が痛いのはおそらくこの通りに転がされたせいだろうか。そう思い彼は身体の各部を確認するが、幸いどこも骨は折れておらず、打撲で済んでいることにホッとした。
本来なら、全治半年に及ぶ怪我を負わされるほどの暴行を受けたのだが、なぜそれが打撲程度で済んだのかについては、彼は疑問にすら思わなかった。
しかしそれも仕方なかった。そもそも彼は田舎から出てきたばかりであり、それほどまでの暴力をこれまでに受けたことがなかった。ゆえにそれが――スキル【守護霊獣】のおかげであることに気付く事ができなかった。
だから彼は暢気にこう思っていた――追放されたけど、頑丈な身体のおかげでなんとか冒険者は続けられそうで良かった。お父さんお母さん、丈夫な身体に産んでくれてありがとう――、と。
「よいしょっと。なんか、泣く気力も無くしちゃったな。あはは、ありがとうレギナ」
『もふぅ』
立ち上がったフィリがくすぐったそうに笑った。それもそのはず、彼のすぐ側には、金色のモフモフした九本の尻尾が揺れる狐――レギナが座っており、ペロペロと慰めるように彼の頬を舐めていたからだ。その細長い顔は獣ながらも美人でやけに扇情的であり、魔性の色気のようなものを纏っていた。
当然、レギナのその姿は街中ではひどく目立つのだが、通りがかる人は誰もその存在に気付かない。
「……とりあえず今日は休んで、明日冒険者ギルドに行って、担当のシキさんに相談しよう」
フィリがそう呟いてこの街の安宿街の方へとすたすたと歩き始める。打撲の痛みが既に引いてきていることが、いかに異常であることも彼には分からない。
「シキさん怒るだろうなあ……」
フィリが初めてこの街に来たのが一ヶ月前。右も左も分からないまま冒険者ギルドに飛び込んだ時に、受付嬢であり新人冒険者を担当して研修も行っているシキと出会った。彼女の綺麗だけど怒るとちょっと怖い顔を思い浮かべ、彼は身震いした。
そういえば、ガルドのパーティに参加すると言った時は良い顔しなかったっけ……。さて追放されたことをどう言い訳しようかと彼が考えていると――なぜかレギナは動かずに宿屋の方をジッと見上げていた。
「どうしたのレギナ」
『グルルル……』
レギナのその目の中には、物心ついた時から彼女のことを知っている、フィリでさえ見たことのない感情が宿っていた。
それに少しだけ寒気を感じた彼は無理矢理、笑顔を作るとレギナの頭を撫でた。
「大丈夫だよ。僕は大丈夫。だから、いこ?」
『くーん……』
未練がましい視線を宿屋に送り、やがてレギナは先を行くフィリの後についていった。
だが、レギナは密かに決意していた。
あいつらだけは――絶対に許しておけないと。
何より、フィリを
そしてそれは、フィリの気付かないところでスキルの成長へと繋がったのだった。
☆
スキル【守護霊獣】のレベルが2に上がりました――
スキル【守護霊獣】の保有アビリティの【耐久力向上】のレベルが2に上がりました――
【自己回復能力向上】のレベルが2に上がりました――
【具現化】のレベルが2に上がりました――
守護霊獣ステータス――
個体名:【レギナ・レーヴェ】
レベル:2
種族:ナインテール(幻獣種)
保有アビリティ:
・【耐久力向上LV2】(パッシブ)――主の耐久力を向上させる。
・【自己回復能力向上LV2】(パッシブ)――主の自己回復能力を向上させる。
・【具現化LV2】(パッシブ/アクティブ)――主のみ見て、触れることができる霊体を得る(パッシブ)/
☆
それはやがて――フィリとレギナの存在を世に知らしめるきっかけとなり、そして最高の冒険者と謳われるようになる、始まりの一歩だった。
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