スキル【守護霊獣】が過保護すぎる件 ~無能はいらないと追放されたら、何もしてないのに勝手にそのパーティが崩壊した。君は何もしてないよね守護霊獣さん?「もふ!? コンコン!(な、なんのことかな!?)~

虎戸リア

第1話:追放と暴力

「あー……なんだっけお前の名前。忘れちまった」

「……フィリです」

「あー、そうそう、その女みてえな名前」


 エーディアル王国、第二の都市であるインティスにある高級宿屋の一室。


 豪奢ごうしゃな剣と鎧を纏った青年が、目の前にいるハチミツ色の肌を持つ銀髪の、中性的な顔と声の少年――フィリへと言葉を叩き付けた。


「お前、やっぱ俺のパーティにはいらねえわ。なんだっけお前のスキル……守護なんとかってやつ。あれ全然使い物にならねえじゃん。つうかお前、雑用以外何ができるの? というわけでクビ、解雇、追放。好きな言葉を選べ」

「で、でも、ガドルさん! スキルなんて気にしないし、剣も一から手ほどきしてくれるって言ってくれたじゃないですか……結局雑用ばっかりで一回も教えてくれな――」


 青年――フィリが所属しているこの冒険者パーティ【遊撃する牙】のリーダーであるガドルが、言葉の途中で鞘のまま剣でフィリの身体を殴りつけた。


「っ!!」


 そのあまりの痛みと衝撃に床へと倒れてしまったフィルを、見下すように見つめるガドルがフィリの頭を踏み付けた。


「んだよ。文句あんの? お前、まさか……本気で俺らのメンバーになれると思ったの? バーカ! お前はただの雑用係だよ! 俺らと短い間だけでも一緒にいれたから光栄だったろ!? それが報酬だよ! 剣なんて教えるわけないだろ!! ほら、その守護なんちゃらで自分を護ってみろよ!! おら! おら!」

「痛い……やめてください……!」


 その言葉と暴力に、フィリは何も言い返せなかった。ガドルが言うように、確かに自分のスキル――【守護霊獣】は冒険者のスキルとしては役立たずだった。個人的にこのスキルには精神的な面でずっと助けてもらっていると思っているが、そんなことは彼らには伝わらない。


 そんな簡単なことからフィリは目を背けてしまい、剣や魔術を一から丁寧に教えてくれるという誘いに、安易に乗ってしまった。


 フィリは悔しくて唇を噛み締めた。いつか教えてもらえるだろうと、雑用や武器磨きを一生懸命頑張ってた自分の努力が全て無駄だったことが、何よりも悔しかった。


「ちょっと……やりすぎじゃない? 可哀想よ……ねえ?」


 そう発言したのはパーティメンバーの一人であり、ベッドに腰掛けている艶めかしい姿の妙齢の女性だった。豊満の乳房や肢体を隠そうともしない際どい、服というよりもはや下着と呼んだ方がいい代物を纏っており、からかうような表情をフィリへと向けていた。


 フィリは、唯一このパーティで優しく接してくれていた魔術師である彼女が嫌いではなかった。ただ目のやり場に困るから、いつも赤面してまともに話せなかった。


 しかし彼女がフィリに優しく接していたのは、一種のおふざけに過ぎなかった。


 すなわち、フィリが彼女に恋したところで、思いっきり振ってやろうと。


 彼女はフィリの側に歩み寄るとフィリの柔らかい銀髪を撫でた。その手付きはまるで愛犬かなにかを撫でるような手付きだった。


「や、やめてください」

「くくく……おいおい、こいつ一人前に反応してやがるぜ。ガキの癖に」


 ガドルが顔を真っ赤にしたフィリを嘲笑う。


「くすくすくす……馬鹿ね! 気付いていたわよ。あんた、あたしに欲情してたでしょ? お前みたいな愚図でガキで役立たずにあたしが少しでも振り向くとでも思ったの!? あたしが優しくしてたのはわざとよ! 絶望する今のあんたの顔を見たいがためにね!」


 ヒステリックな声と共に、彼女がフィリの横腹を蹴り飛ばした。


「ねえ、もう殺しちゃおうよ! あたしらもうAランクに上がったし事故として報告すれば何とかなるんじゃない!? もっと絶望する顔が見たいわ!」

「……や、やめとけ。そんなガキ一人の為に、パ、パーティを危険に晒すのは愚かだ。それより……じ、じっくりと痛み付けて俺達に逆らわない事を約束させる方がいい」


 そう呟いたのは痩せぎすの回復士の男だった。その目には、嗜虐的な光が浮かんでいる。


「相変わらず温ぃな。殺すのがダメなら、犯すぐらいはしても良いんだろ? 実はずっと狙っていたんだ……はあ……はあ……」


 荒い息と共に、獣欲に濁った目でフィリを見つめてそう発言したのは筋肉質で、巨大な槌を背負っている重戦士の男だった。


「へ、変態め」

「お前に言われたくねえな」

「あー、うるせえ。俺らにそんな暇はねえだろ? もうすぐSランク選抜も始まる。そろそろガチで気合い入れて依頼をこなしていくぞ」


 そうガドルが言うと、全員が黙った。


「つーわけで、お前――あー名前もう忘れちまった。とにかくお前は追放。あと、言っておくが少しでも俺らのことをギルドに密告したり陰口を叩いたりしたら、それこそ殺すからな? ま、俺らに逆らえば怖いってことをたっぷりと身体に教えてやるよ!」


 ガドルはそう言い終わると同時にフィリの頭へと鞘を振り下ろす。


 フィリの意識は、痛みと衝撃と共にあっけなく刈り取られたのであった。


 そしてその後も、気絶したフィルを嬲るように暴行が加えられ続けた。


 ――だが、ガドル達は気付いていなかった。否、気付けるわけがなかった。


 【守護霊獣】のスキルによって常にフィリの側にいた、常人には視る事も触れることも出来ない一体の獣が――世界を揺るがすほどの怒りを露わにしていたことを。

 

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