第20話 森から出るための方法
家を作ることができた。食料も得ることができた。
日に日に生活環境が整っている。それを見るたびに心に平穏が訪れる。
「このまま、この森で暮らすのもいいかもしれません……」と、ふとした時にセレスさんもそう呟いている。
決して快適とまではいかない。だけど、そう思えるぐらい、今の生活は充実しているのだ。
……しかし、そういうわけにもいかない。
この森には呪いが蔓延している。その呪いはセレスさんにとっては、悪影響をもたらす。
この家にいる限り、そういうのは遮断されているけど、それはただの気休めにすぎない。だから、森から出るための方法を探さなければいけないのだ。
そういうこともあり、今日の俺は家の外に出て、森から出るための方法を探しにいくことにした。
「シバサキくん、やっぱり私もついて行かなくて大丈夫ですか……?」
玄関のところ。出かけようとしていた俺の手を握ったのはセレスさんだ。
その手に植物の葉でできた包みを持っている。これは、弁当箱だ。
そんなセレスさんは心配してくれているみたいだった。
でも……。
「今日のこの森の呪いは濃いから、セレスさんには家にいてほしくて……」
「……っ。それを言われたら、頷くしかありません。シバサキくんは……私のことを心配してくれます」
やや頬を赤くしたセレスさんが、小さく顔を綻ばせた。
……俺も心配だ。
呪いの加護がある俺は平気だけど、この森に蔓延している呪い。それのせいで、もしセレスさんの体調が悪くなると心配になるし、セレスさんが苦しんでいる姿は見たくはない。
その呪いは日によって変わり、今日は特に濃い日だ。そして、その日にしかできないことがある。この森から出るための手がかりも、多分、呪いが濃い日の方が見つけやすいとも思う。
だから、呪いの加護でその影響を受けない俺が探すことにしている。
一応、色々すでに試してはみた。
例えば、普通に歩いて、出ることはできないのか……ということだったり、それは結局は無理で、歩けども歩けども、出口にたどり着くことはできなかった。
それでも、ヒントになりそうなものはすでに発見している。
だから、あとはそれを辿るだけだ。そしてこの森から出る方法が見つかったら、セレスさんには森の外の新鮮な空気をたくさん吸ってほしい。
「では、気をつけて行ってきてくださいね」
「はい」
「遅くならないように」
「はい」
「あと、出かける前に……ちゅっ」
「あっ……、セレスさん……」
近づくセレスさんの体。直後、頬に柔らかい感触があった。セレスさんが俺の頬に口づけをしていたのだ。
「これは、セレスの加護です。あなたが無事に帰ってきてくれるように」
セレスさんが俺の体を抱きしめて、もう反対側の頬にもキスをしてくれた。
「シバサキくん、行ってらっしゃい」
「い、行ってきます」
「ふふっ」
その後、俺はセレスさんに見送られながら、家を出て、森の外を歩き始めた。
いつみても、不気味な森だ。
木が腐っている。空気も腐っている。空も見えない。澱んだ空気が蔓延しているのだ。
そしてその森を歩いていると、ふいに、妙な空気を感じた。
「……雰囲気が変わった」
森の中に漂う魔力の質。それが変わったのを感じ取った。
これはたまにあることだ。この森に蔓延している澱んだ空気が、さらに濃くなっている場所がある。
そしてこの空気中には、微かにだけど、怪しげな魔力も感じられる。これは恐らく……魔物のものだと思う。
そもそも、この森に蔓延している呪いの魔力は、一体どこから発生しているのだろうか。
そう考えて、今の現象も合わせて考えてみると、この森には呪いを吐き出している魔物がいて、その魔力が空気中に漂っているのではないか……と、推測される。
まだ予想の段階だ。だけど、これが、手がかりにはなるかもしれないと思っている。
もしかしたら、全く関係ないことかもしれない。
だけど、手がかりはこれしかないから、やってみるしかないのだ。
「……魔物がくる」
『ガアアアアアアアア!!!』
俺は殺気を感じ、武器を構えた。
すると、近くから魔物が飛びかかってきた。
狼の魔物だ。その魔物が爪を振り下ろしてきた。
俺は一歩後ろにさがり、それを躱す。そして手に持った武器で、魔物の首を斬った。
その結果、森の中に血が飛び散る。魔物の叫び声が響く。
そして倒した魔物に魔力を流すと、その体は黒い塵となり森に消えた。
それから、数秒後。
周囲におびただしい数の魔物の気配が迫ってきていた。
『『『『『ガアアアアアアアア!!!』』』』』
狼のような魔物、小鬼のような魔物、骸骨のような魔物。
姿はさまざま。共通しているのは黒くて、血が緑色ということぐらいだ。
この森では戦闘を終えても油断してはならない。
魔物を倒した瞬間、それにつられた他の魔物が押し寄せてきて、連戦になることがあるのだ。
一度そうなってしまえば、しばらくは止まらなくなるから、とにかく倒さなければいけない。
「ロスト・ボルテックス」
俺は武器を握り直し、敵の横をすり抜けて、そのすれ違いざまに敵を斬った。
そして、魔力を一気に流した。その瞬間、敵の全身から血が噴き出していた。
『グアアアアアア!!』
次の魔物も同じように倒す。その次の魔物も同じように倒す。
今度の魔物は、串刺しにして。今度の魔物は、捻り潰して。
血の雨が降っている。
この光景にも、もう慣れたものだった。
この世界に来た当初、魔物を倒した時には、「うっ……めまいが……っ」となっていたが、今ではもうそんなこともない。
これが、この呪われた森で生きるということなのだ。
一度、俺は死んでいるから、その感覚も麻痺してしまっているのかもしれない。
そう思いながら、俺は次々に迫ってくる魔物たちを倒し続けた。
そして数十分が経ち、そろそろ魔物も収まるだろうと思いながら武器を振り続けていたのだが……。
「……まだ収まらない」
おかしい……。
いつもなら、この辺りで、収まるはずなのに……どうも、いつもと様子が違う。
「むしろ……魔物が増えている」
そして……謎の声も聞こえた。
ーー『くっ、くっ、くっ。もっと倒せ。でなければ、ただ死ぬだけだ』ーー
「あれは……」
少し離れた場所。そこに魔力の残滓が集っていた。
そこにはうっすらと何者かの姿が見え隠れしていた。
あれは……魔物か。
いや、人の姿をしている。
なによりこの感じは……どこかで感じたことのあるもののような気がした。
俺は警戒し、周囲に集う魔物を倒すのを中断しようとしたものの、そういうわけにもいかず。
むしろ、攻撃の手を強めて、魔物たちを一掃することにした。これもなにか、森から出るための手がかりになるかもしれない。
「ロスト・ジャッジメント」
『『『ガアアアアアアアア!!!』』』
死んでいく魔物。
一気に吹き飛ばし、死んだ魔物の魔力が弾けていく。
そして、奴は口を大きく開けて、その魔力を吸い込んでいた。
その結果、その人物の姿がはっきりと形作られた。
「くっ、くっ、く……っ。会いたかった……っ。この前ぶりだ」
現れたのは、少女の姿をした人物だった。
小柄な少女。髪の色は灰色だ。
その頭には耳が生えている。臀部からは尻尾も生えている。
濁った色の、薄い毛皮でできた布を羽織っている。
その少女は俺の顔を見ると、黒い魔力を纏いながら笑っていた。
あっちは俺のことを知っている風でもあった。
俺は彼女のことは知らない。
そして、少女が口を大きく開けると、息を吸い込み始めて、一気にブレスを吐いてきた。
「く……ッ」
俺は咄嗟に防いだものの、全身に纏わりつくような不快感を感じた。
そして、この絡みつく不快感。以前、どこかで感じたことのある不快感だった。
黒くて、ドロリとした、感じだ……。
これは……、この感じは……、あいつだ……。
「お前は……俺をこの森に引きずり込んだ時の……あの獣か!」
「いかにも。ロストの森の番犬、ロストロスとはわたしのことなのだ! あの時はよくもやってくれたな。こうして人間の姿として顕現したわたしは、前と同じとは思わないことだ」
【名前】ロストロス Level -????
【種族】???(?????)
【装備】
・武器 ???????
・防具 ???????
H P ???????/???????
M P 0/0
攻撃力 ????? (???????)
防御力 ????? (???????)
素早さ ー/ー
運 ???????????
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