第12話 彼の祟りだ! 彼はきっと私たちを恨んでるんだ!
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その時、召喚の間は騒然としていた。
教会のような作りの部屋の中、誰一人として動くこともできずに、禍々しいモノにクラスメイトの一人が飲み込まれてしまった後の部屋の中に取り残されていた。
「紫裂……くん?」
まるで嵐の後のような静けさの中に、一人の少女の声が響いた。
彼女の名前は、七宮ひなの。呼んだのは、いなくなった男の子、紫裂くんの名前。
「英雄……様っ。英雄様ぁ……!」
そのそばで叫んだのは、第四王女フィリスティア。
本来、ああなるのは彼女の予定だったのだが、すんでで彼がその身を呈して自分たちを守ってくれたのだ。
残っているのは、最期に握られた彼の手の温もり。
それすらも時間が経つにつれて、なくなってしまった。何も無くなってしまっていた。
いや、それとも少し違う。
ーースキルが譲渡されましたーー
【『聖魔術師』(神)】
ランク☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
最高級ランクよりも上の、神に等しいランク。
全てのスキルを使用可能。あらゆる現象を顕現可能。
英雄を超えた、英雄。全てを超越し者。
「……どうしてスキルが……」
七宮ひなのの中に、スキルが宿っていた。
誰からの譲渡なのかはすぐに分かった。
「柴裂くん……」
もう一度、彼の名前を呼ぶ少女。
だけど、その彼が帰ってくることはないのだった。
* * * * * *
その後……結局、異世界に召喚されたクラスメイトたちは、全員こっちの世界に残ることになった。
あまりにも帰るためのリスクが多すぎるため。この国の魔術はもう信用できないため。
元の世界に帰るにしても、自分たちの力でどうにかしようということになり、そんな考えに至った。
「誠に申し訳ない。こちらの不手際で重ね重ねお詫びを申し上げる。心から……ッ!」
と、国王が頭を下げる。しかし、生徒たちの誰も、その言葉が国王の心からの言葉ではないことを察していた。所詮、上辺だけの謝罪なのだ。
「しかし、お主らのクラスメイト。英雄殿の柴裂殿は英雄にふさわしい行動を取ってくれた。この国の第四王女であるフィリスティア王女を身を挺して守ってくれたのだ。その偉業に、敬意を示すために、黙祷を捧げたいと思う」
国王がそう言うと、召喚の間にいる魔術師たちや騎士たちが英雄に黙祷を捧げる。
クラスメイトたちも黙祷を捧げ、いなくなった彼との別れを済ませることになった。
……ちょうど、その時だった。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……。
「きゃ!」
「何!? 地震!?」
「みんな、落ち着け、落ち着くんだ……!」
揺れが起きた。召喚の間が揺れて、全員に緊張が走る。
その揺れはすぐに収まったものの、今度は召喚の間に飾られてあった花瓶が落ちて、パリンッ! という音を立てた。
「今度は何!?」
「うそ、見て……! 花瓶が割れてる!」
「なっ、なんで!?」
立て続けに起こった事態に、生徒たちがパニックになる。
そして、誰かがこんなことを呟いた。
「こ、これってもしかして……柴裂くんの祟りなんじゃ……」
「「「!?」」」
「「「……祟り!?」」」
祟りとは、恨みつらみがこもり起こる現象である。
そして先ほど、柴裂くんは死んだ。だから柴裂くんが怒ってる。一瞬にして、そう察したのだ。
「そ、そんなことなんて……あるのか!?」
「だって、柴裂くん! うちらのクラスで、色々嫌がらせを受けてたじゃん! 今朝だって、教室で足を引っ掛けられて、花瓶の泥水を浴びせられてた……! だから、私たちのことを、恨んでるよ……!」
「「「!!!!」」」
ないとは言い切れないことだった。
「お、落ち着け。落ち着くのだ、皆の者よ!」
慌てて王が、場を諌めようとする。
「英雄殿がそんなことをするわけがなかろう」
「「「で、でも……!!」」」
その時だった。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……。
「!?」
「また揺れた!?」
「やっぱり、柴裂くんが起こってるんだ……!」
ガタガタガタガタ……パリンッ! と、揺れて、部屋に飾ってあった別の花瓶が割れた。
確定だ。つまり、死んだ柴裂くんが、起こって、祟りを起こしてる……!
「絶対に私たちのことを、恨んでるんだ……!!!」
「「「「!!!!」」」」
「お、落ち着け。落ち着くのだ、皆の者よ!」
震える生徒たちと、慌てる国王。
しかし、この場の全員が柴裂くんの祟りを恐れ始めていた。
……本当は、ただの偶然だ。最近の王都は微かな揺れが続いているため、今回もちょうど揺れただけだ。
花瓶もその揺れで、床に落ちて割れただけだ。決して、柴裂くんが祟りで割ったわけではない。
「そうだ……! これも、呪神ロスト・ルジアの仕業だ……!」
そして、王は呪いの神と言われている存在のせいにした。
実際には、その存在は何も手を下してはいない。そもそも呪いの神と言われる彼女は本当は神様ではないのだ。この国の歴史を辿ってみれば、分かる人には分かることだった。
不都合な歴史の改竄とともに、そう忌み嫌われる存在だとされるようになっていたのだ。
だからこそ、もし、その時が来たら彼女はきっと躊躇わないだろう。
この国に、呪いと災いを降り注がせ、人々を恐怖に与えることを。
呪神ロスト・ルジアにとって、それは簡単にできることであり、それを知るものは誰もいない。
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