第11話 あなたには期待しています。
「では、これからのあなたにやってほしいことを告げます。あなたには、私の加護の影響で様々な恩恵を受けているから、それを使って私に尽くすことが、あなたの役目です」
「分かりました」
「よろしいっ。物分かりが良くて、大好きです」
彼女が俺の頭を撫でながら笑みを浮かべる。
頷くしかない。さっきステータスで確認した通り、俺のステータスが全て変化してあった。スキルもなくなっていたし、レベルも0になっていた。
何より俺は一度死んでいる。多分、もう普通でもない。それと、少しヤケになっているのかもしれない。それでも、いいと思ってしまった。
「でも、具体的には何をすればいいのでしょう」
「なんでもいいですよ。あなたの行動一つ一つが私の糧になり、手中に収まるのです」
つまり自由なのだ。そして、彼女の加護を受け取った俺なら、なんでもできるのだ。
「私はここでずっと見ています。あなたの行動を。だからこの世界の全てを、呪いに包み込んで、全部、全部、あなたに、そして私に、恐怖させてしまえばいいのです。人間も、魔族も、魔物も、すべてです」
「分かりました」
「よろしい」
俺は頷いた。彼女も頷いていた。
今いるここは、ロストの森の裏……という場所とのことだけど、普通とは別の空間みたいな場所だという。彼女の口ぶりからすると、俺はここから出られるようだし、彼女はここから出ることはできないのだ。
「あなたには期待してますよ。あれはお見事でしたから。王都デレクトルの召喚の間。そこで第四王女フィリスティアちゃんとクラスメイトの七宮ちゃんという少女を守って、自分が身代わりになったのですから」
「……あれは……別にそういうものでもないです」
「それが素敵なのです。人のために、そこまで身を呈することのできる人はいません。私がずっと求めていた人材です。あなたは優しい方ですもんね」
「優しい……」
俺は優しい。
正直……自分でもそう思っていた。
俺は優しいのだ。そう心掛けてきたつもりではあった。
……だけど、そうだったのなら、どれだけよかったことか。
本当は……全然違った。
俺は自分の本性というのを知っている。この身で嫌というほど思い知った。
例えば、異世界に召喚された後、うちのクラスのあの担任の教師が、国王に強制的に元の世界に送還された時。ざまみろと思った。
送還の不具合で、あの担任の教師の体に異変が起こり、苦しんでいる姿が水晶に映し出された、あの時も。そのまま苦しんで死んでしまえと思った。それが俺の本心だった。
それと、あの四人組。今朝、教室で俺に足を引っ掛けたり、花瓶の泥水を頭から浴びせてきたりしてきたうちの二人のあいつらが、使い物にならないスキルだと鑑定された時。ざまみろと思った。
あの時のあいつらの顔を見ているのは、すがすがしいほど気分が良かった。あのまま、クラスメイト全員に見下されてしまえと思った。今までの報いを受けろと思った。
なんなら、俺が直接この手で、今までのことをやり返してやろうかとも思った。
俺にはそれができるんだ。
なぜなら、あいつらとは比べ物にならないほど、高レア度のスキルを手に入れて、あいつらには虫ケラ並みの力しかないのだから。
そう考えている自分があの時にはいた。
……結局。
俺も人のことを言えたものではない。ロクでもないやつなのだ。
「……ふふっ。自分でそう思えるのなら、あなたはやっぱり思った通りの子です。だからこそ、あなたはあなたなのです。私の見込み通り、素敵な人です」
彼女、ロストルジアさんが俺の頭を撫でながら、額に口づけを落としてきた。
「さて。ではもう立ち上がってもいいかもしれません。少し、立ってみてください」
「……はい。……うっ」
「ふふっ。まだ少しふらふらしてしまっていますね」
足に力を入れる。腰に力を入れる。
だけど、上手く体が安定しない。それでも、なんとかバランスを取って、自分の足で立つ。
「うん。大丈夫そうです。そして、これはプレゼントです。私の加護を受けたあなたには、私の呪い付きの服を」
ちゅっ、と、今度は俺の頬に口づけをする彼女。
その瞬間、俺の体が禍々しい光に包まれて、格好が変化していた。
黒い服だった。灰色も混じっている。とにかくダークな雰囲気を感じる服だった。
その服は、すぐに体に馴染んだ。初めて着る服なのに、今まで着たどの服よりもしっくりくる服だった。
「では、そろそろお別れです。次に目覚めた時、あなたはロストの森にいるはずです。あの森にはあなたを食べ殺した魔物が今も生きていますので、どうにか生き延びてください」
その言葉と同時。
俺の全身が紫色の光に包まれて、目の前にいる彼女の姿が見えなくなっていく。
そんな彼女に見送られながら、俺はこの場所から姿を消すことになった。
* * * * * *
そして、次の瞬間。
気が付くと俺は彼女が言っていた通り、ロストの森という場所にいるようで。
「はぁっ、はぁっ……あっ、気がついたようですね。でも、じっとしててください。今は、逃げないと殺されてしまいますので……」
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
背後には、獣のような魔物。あいつは俺を食い殺したやつだ。それが、森の木々を薙ぎ倒しながら追いかけてきている。
そして、俺はというと、桃色の髪をした一人の少女の肩に背負われながら、迫りくる魔物から逃げているようで、
「きっと、平気です。今もどこかで、呪神ロストルジア様が私たちの無事を見てくださっていると思います。だから、大丈夫、もう大丈夫。きっと」
改めて俺の体を背負い直した彼女が、安心させるようにそう声をかけてくれるのだった。
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