第5話 スキルが授与されなかった。
クラスメイトたちのスキルの鑑定は滞りなく行われていった。
石板のところへと並び、順番に石板に触れて、スキルの授与、及び鑑定をしていっている。
この世界に住んでいる者ならスキルは当たり前のように持っている力で、異世界から召喚された俺たちは、石板に触れることで神様から直接スキルを授かっていることになるそうだ。
そのスキル。レア度、つまり☆が高ければ高いほど、強力なものということになる。
一番高いレア度は、俺のスキルのレア度で。
ランク☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆。【大英雄(神)】
これは歴史史上、類を見られないほどで、剣士、魔法、その他全てのスキルを使うことができるスキルみたいだった。
そして、俺のスキルの次にレア度が高かったスキルが、【魔導騎士(パラディン)】ランク☆☆☆みたいだった。
星3だ。この星3というのは、この世界では最高ランクとのことだった。
他のクラスメイト達も、☆☆か☆で、これでも滅多にいないレアだそうだ。
「☆はそれほどレアなのです。生涯で☆を一つでも授与されたものは、数少ないという記録があります」
俺のそばにいる第四王女フィリスティア様が教えてくれる。
クラスメイト達が鑑定を行なっている間、俺とフィリスティア様は脇に二人で移動していて、そこで鑑定の様子を見ていたのだ。
だけど……。
「あ、あの……」
「はいっ。どうされましたか、英雄様」
「……っ」
ぎゅっと、抱きしめられる俺の腕。
彼女の胸の合間に俺の腕が挟まれる感じになっており、彼女はずっと俺の腕を抱きしめているため、ずっとこの体制なのだ。
そして彼女は人懐っこい表情をしていて、とにかく邪気がないのだ……。曇りのないまなこを俺に向けてくれている。
「英雄様っ、何か気になることがあれば、私に聞いてください。フィリスティアは英雄様のお力になりとうございます」
「あっ、ちょ……」
すりすりと頬擦りをするフィリスティア様。
近い……。
でも、これはダメなんじゃないだろうか……。彼女は王女様だから、俺は不敬罪にならないだろうか……。
と、俺たちがそうやっていると、視線も感じた。クラスメイト達の視線だ。
「七宮さん? どうしたの? さっきからずっと紫裂くんの方見てるけど、もうすぐ七宮さんの出番だよ?」
「え、あ、うんっ。なんでもない。ご、ごめんね」
七宮さんと目が合った。
今朝、洗い場でハンカチをくれた子だ。
その七宮さんは慌てて俺と目を逸らすと、そばにいたクラスメイトの女子達と今か今かと鑑定の順番を待っている。
七宮さんの周りには生徒が多く集まっていて、そこだけ空気が澄んでいるように見える。彼女が与える安心感があるからだろう、元の世界とは違う世界に来たというのに、あそこだけ不安が和らいでいるように見えるのは、七宮さんがいるのが大きいと思う。
……そして。
その七宮さんの番になって、ハプニングが起きた。
「あれ……。石板が、反応しない……」
石板に触れる七宮さん。
しかし、一向に変化が訪れなかった。
石板に触れ、スキルを授与される際には、石板が反応して光る。
しかし、七宮さんが触れても、何も変化が起こらなかった。
「不具合でしょうか? いえ、でも、あの石板に限ってそんなことはあり得ません。申し訳ございません、英雄様、私少し見てきます」
俺に一言そう言うと、フィリスティア様が石板のそばにいる七宮さんの元へと向かった。
そして、七宮さんと言葉を交わし、石板にぺたぺたと触れて、七宮さんと一緒に石板に手をかざしたりしていた。
しかし……。
「「何も起きない……」」
変化は起きなかった。
「どうしましょう……。石板が反応しません……」
「あの、ありがとうございます。でも……多分、私にはスキルがないから、反応しないんだと思います」
「しかし……それでは、あなたが……」
「私も、少し楽しみでしたけど……残念でした」
そう言って、七宮さんがフィリスティア様に対して笑みを向けた。
その笑みは、フィリスティア様を安心させるための笑み。その後、七宮さんはもう一度フィリスティア様にお礼を言うと、スキルの授与ができないまま、クラスメイト達の元へと戻った。
「え、英雄様ぁ……」
そして、フィリスティア様はというと、とぼとぼと俺の方へと戻ってきて、その顔は泣きそうな顔をしていた。
そのまま、とん、と俺の胸に顔を埋め、ぐりぐりと金色の髪が輝いている頭を、擦り付けてもくる。
「えいゆうさま……。私、何もできませんでした……」
……気に病んでいるようだ。
七宮さんにスキルが与えられなかったことに。
「じーー」
「……あ」
ここで、視線を感じた。七宮さんの視線だ。
彼女は俺の顔を見ると、小さくこくこくと頷いていた。
周りからも、期待するような視線を感じた。
……つまり、慰めろ、と。
落ち込んでいる、フィリスティア王女を慰めろ、と。……そういうことみたいだった。
「フィリスティア様、大丈夫……。もう大丈夫……」
「英雄様っ」
きゃっと、どこかから黄色い声援が聞こえた気がした。
頬が色づくフィリスティアさん。まるで子供みたいに、俺の胸に顔を埋めて抱きしめてくる。
でも……これは本当に不敬罪に当たらないのだろうか……。相手は王女様だけど、大丈夫なのだろうか……。
そう思いながらも俺はフィリスティア様の頭を撫で続けることになっていた。
ともかく、そんなこんなで、全員分のスキルの鑑定の儀が終わった。
七宮さんのスキルはなしということになり、クラスメイト達が彼女のことを慰めてもいた。
「これで、全てのスキルが判明だ。この世界にいる限り、スキルというのは重要になってくる。そして、それを踏まえた上で、この世界に残るか元の世界に帰還するかの選択をしてほしい。帰還の準備を整えるため、各々の意思を聞くのは今より数刻後。日が沈む頃になるはずだ」
今の時間が、大体午前の9時。
元の世界の時間とこっちの時間はほぼ同じらしく、帰還の準備が午後の19時ごろに整うとのことだった。
「それまでの間、城で食事をするなり、街を散策するなり、自由に過ごしてほしい。もちろん、護衛付きということになるが」
その言葉で、クラスメイト一人一人のそばに、騎士や魔術師が立つ。
女子生徒には女性、男子生徒には男性。護衛、及び監視の役目もあるんだと思う。
「私は英雄様のおそばにお付きしとうございますが、どうでしょうか」
「おお、それがよいな。この国の姫として、英雄様をもてなすがよい。では、時刻まで、一時解散」
その言葉に、部屋のドアが開かれる。
外の光が部屋に入ってきて、ドアの向こう側を明るく輝かせている。
「さあ、英雄様、私と共に行きましょう! あの向こう側へと!」
「あっ、ちょっ……」
俺は、第四王女フィリスティア様に手を引かれて、いの一番に走り出すことになり。
握られている彼女の手はか細くて、だけど、それ以上に暖かくて、力強さを感じた。
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