第4話 足を引っ掛けてきたやつと、花瓶の泥のやつ
「すごいです、すごいです! 本物の英雄様がここにおられました!」
「あっ、ちょ……っ」
ぎゅっと、そばにいた第四王女フィリスティア様が、俺を抱きしめてきた。
俺の背中に両腕を伸ばしてきて、その顔に浮かべているのは満面の笑みだ。
俺のスキル【大英雄(神)】。
ランク☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆。
……とてもレアそうなスキルだ。
星がいっぱいある。しかも、このスキルが出た瞬間、石板が砕けた。
周りにいる全員が、そんな石板と俺のことを口をぽかんと開けながら見ていた。
「石板を破壊したぞ!?」
「あれは、壊れるのか!?」
「こんなこと、今までで一度もなかったぞ!?」
「これは……想像以上だ」
国王様も驚いているようだった。
なにより、一番このスキルを喜んでいるのは彼女、第四王女フィリスティア様だった。
「私、昔からずっとこの時を待ってたんです! 本物の英雄様に会いたいって! だから、とっても嬉しいです!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、俺を抱きしめ続けるフィリスティア様。
むぎゅむぎゅと、体同士が密着する。彼女の抱きしめる力が、強くなっていく。
そして、俺はそんなフィリスティア様に手を引かれて部屋の隅へと移動することになり、これからの鑑定の儀は別の者が取り仕切るとのことで……。
「では、これからは、この宰相めに鑑定の儀をお任せくだされ」
60代ほどのローブ姿の男がそう言った。
「いや、待て! その前に、この結果はおかしい! 何かの、間違いだ!」
声が響く。
その声は、クラスメイト達の中からの声。
前に出たのは、あの四人組のうちの一人の男子だった
「きっと不具合だ! あんな奴が、そんなにすごいスキルを持っているわけがない!」
俺を睨みつけて怒鳴ると、宰相の元へと向かった。
「おや。あなたは」
「俺のことなんてどうでもいい。だけど、知ってるか? さっきスキルの鑑定をしたアイツ、今朝俺たちが花瓶の中の泥水をぶちまけてやったやつなんだぞ? なあ、よおぉ?」
「それはそれは……。しかし、結果はすでに出ております。不満なら、あなたもここに来てスキルを鑑定してみるとよろしいかと」
「ああ、やってやるよぉ。やりゃ、いいんだろ」
舌打ちをしながら、石板のところへと向かう。
そして、スキルの鑑定を始めるようで、石板が反応し、スキルが表示される。
「おお……! おおお……!」
「「「「「おおおお……!!!」」」」」
「おお……! おおおおおおお!!!」
「「「「「おおおお……!!!」」」」」
「あなたのスキルは……これです!」
『スキル』足引っ掛け ランク F
初級スキル。
一般人なら、誰でも所有しているスキル。
弱いスキル。
「なんじゃこりゃああああああああああああぁぁぁぁ!?!?!?」
叫び声が響く。
「おやおや……、出たのはFランクスキルだったようですね」
宰相が言う。
「ほっほっほ。英雄召喚の儀で出たのが、一般人にも劣るスキル……。これは少々期待外れだったのお」
と、国王様。
「ちくしょおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおお!!! なんで、俺がああああああああ!」
咆哮をあげ、ゴンッ! と石板に殴りかかる。……その直後、ゴギッ! と言う音とともに、骨が折れる音が聞こえてきた。
「いでえええええええええぇぇぇ!!! いでええええええよおおおおおおおおおぉぉぉ!」
「まったく、人騒がせなやつじゃな。衛生兵、あとは頼む。……では、次の者! 前へ!」
「「「「はい!」」」」
それから、次々に石板の元へと向かう生徒達。
スキルを鑑定するべく、列を作り、順番に調べていく。
(でも、さっきのあいつ、見たか。スキル『足引っ掛け』だってよ)
(そういえばあいつ、今日の朝、教室で紫裂くんに足引っ掛けてたもんね。てか、やばいんじゃない?)
(だよな。英雄様をいじめてたし、あいつ、死んだな)
(お、見てみろよ。今度はあいつらの、リーダー様の出番だぜ。今朝、柴裂くんに、花瓶の泥をぶちまけてたアイツだよ)
「こ、今度は、俺の番だ!」
スキル 魔力使い ランク F
魔力を使うのが、楽になるスキル。
一般人なら、誰でも所有しているスキル。
「……俺まで雑魚スキルだって……ッ!?」
「おお、またFランクスキルが出てしまったようじゃな。お主はこの中でも、偉そうで、周りに恐れられているみたいだったので楽しみじゃったが、なんじゃ……。期待はずれじゃの」
(だっせえ……! 見ろよ、あいつ……! カススキルで、顔真っ赤だぜ……!)
(教室にいた時は、あんなに威張ってたのにな! 親が偉いとかで、あんなに調子乗ってたくせにな!)
(だせえー! まじ、だせぇぇ〜! きっと、英雄様の力でバチが当たったんだろうな!)
「お、お前ら! なんだ、その顔は! お、俺に何か文句があるのか!?」
「うるせえよ。どけよ、カス」
「お、覚えてろよ……!」
どん、と蹴られて、どかされて、次のクラスメイトがスキルの鑑定をする。
そして、石板が光る。また別のスキルが鑑定されて、次の順番が回ってくる。
喜びと、嘲笑。
場の空気が、暗く澱んでいて。
正面に見えるこの部屋の七色のステンドガラス。そこから差し込む光が、少しだけ濁って見えた。
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