狂戦士の本心(2)
フレネティからの正確無比な狙撃をにらんで接近を躊躇う防衛アームドスキン隊。危険を冒さなくとも航宙船などすぐに撃沈できると踏んでいるのだろう。
ところが彼我の距離が1,000mを切ったあたりで先行した航宙船が防御フィールドを解除してしまう。リトルベアの御する船団からはビームの雨。直撃を受けた戦闘艦は巨大な爆球に変わった。
「自分で沈めてどうする?」
艦隊司令ロドリコの言葉には嘲りが含まれる。
「どうかなるのは君たちのほうなんだけどさ」
「む?」
続けて膨張する爆球の数々。しかし、ディノは砲撃の手を緩めていない。爆炎の中で多少は減衰するもビームは突きぬけていく。
(見えてない。表の艦隊はハイパーボーグ被験者が少ないはず。とても躱せない)
ジュリアは戦術を見抜いていた。
爆炎の向こうから突如として抜けてくるビーム。戦列を組んでいたアームドスキンは慌てて躱そうとするも躱しきれるものではない。
狙撃されたのではないので急所に直撃とはいかないが、頭や腕、脚と失っていく。
「馬鹿だね」
リトルベアのくすくす笑いが響く。
「ただの爆弾なんだよ? 中に生きた人間が乗ってて守らなきゃいけないわけじゃない。撃つさ」
「く、こちらの常識を逆手に取ったか」
「もう逃れられないね」
また何隻か先行していく。接近する前に撃沈しようと前進すればフレネティの狙撃を食らう。すり抜けて撃沈に成功する例もあるが、膨大な数の手駒を有するディノのほうが圧倒的有利である。
「この悪魔め!」
「どっちが悪魔の所業かな?」
(その狂戦士を作ったのは誰なのかしら)
彼女からすれば自業自得でしかない。
根源を断とうとフレネティ撃破に向かうアームドスキンもいなくはないが、容易にあしらわれて返り討ち。まったく歯が立たないままに六千もいた機動部隊は疲弊、明らかに数を減らしていく。
「おい、もういいだろ?」
オグルが呼びかけている。
「勝負はついてる」
「もうやめろって言うのかい?」
「丸裸にして地上まで焼けばお前ぇは稀代の極悪人だ。だが、今戻ってその身体を調べさせたうえで証言すれば管理局はルジェ・グフトの罪を認める。丸く収まるんだぜ?」
手打ちにしろと説得している。
「それで解決なのかな?」
「解決だろうがよ」
沈黙が流れる。ジュリアにもその迷いの意味が解っていなかった。
「起きてるかな、エルド」
意外な名前が挙がる。
「生真面目で心配性だけど、君の常識がチームを下支えしてる。こんなとこで諦めたらダメだよ」
「まだ……、諦めるもんですか」
「それでいい」
病室からの答えに満足している。
「ペピタ、仲良くしてくれてありがとう」
猫娘に呼びかける。
「君の明るさが皆を救ってる。ぼくも同じだったよ」
「戻ってくるにょ。まだ遊び足りないにょ」
「いつも元気だね」
少年の声が穏やかに流れる。
「シータ、優しさが染みたよ」
几帳面な娘も忘れてはいない。
「皆を大切に思う君は目立ちはしなくともチームには欠かせない存在なんだ」
「行かないで。うちはまだ……」
「ぼくのために泣かないで」
彼の覚悟を知って涙声になるカルメンシータを気遣う。
「アデリタ、色々と教えてくれてありがとう」
「母を知らないぼくにも、お母さんっていうのは君みたいな人なのかなと思わせてくれた」
「まだ甘えてもいいのよぉ?」
「つらくなるだけさ」
明らかに別れを匂わせる。
「フェム、楽しい会話だったよ」
次はエフェメラ。
「一人上手な振りして誰の負担にもならないようにしてるけどさ、それが君の情だよね。本当は一番寂しがり屋のくせに」
「バラさないで。責任とってわたしも……」
「素敵な君を理解してくれる人がきっと現れる」
「オグル、気難しい父親役、ごくろうさん」
からかう声は笑いを含む。
「嫌われ役も買ってでて、きちんまとめてる。間違いなく君がチームの要だよ。本当の親になったら優秀な父親だろうね」
「言われるまでもねえ。女を泣かせてまでお前ぇは……」
「さすがに刺さるね」
苦笑している。
「ファイヤーバード、大切な君」
彼女の番だ。
「美しく気高くまぶしい光。必要としているのはチームに留まらない。星間銀河が君の正義を必要としている。もっと輝いて世界の闇さえ照らしてほしい」
「あんただって明るい場所に連れていってあげる」
「どこまでも羽ばたいていけ、ぼくの火の鳥。こんな男に心を捕らわれたり、傷を背負っていってはいけない。誰もが君を待っている」
「リトルベア!」
戦闘は続いている。一人の少年の魂を消費しながら。
「安らぎが感じられたんだ」
狂戦士の本心が語られる。
「家族ってこんななのか、幸せってこういうものかって思えた。こんなぼくでさえ変えようとするチームなら世界の誰でも笑顔にできる。そんな君たちが何度も命の危険に瀕するような現状はきれいさっぱり解消すべきなんだ」
淡々と訴えてくる。
「だからぼくは行くよ。すべてを終わらせに」
(終わらせる? なにを終わらせるの? それは自分も含めてのことなんじゃないの? そんな覚悟を知らされたらあたしは……)
ジュリアも一つの覚悟を決めていた。
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