トダルコート焦土化作戦

「エレメントを『大口径砲バスター』に」

『はいはーい』


 電波やレーザー以外の回線でフレネティと繋がっているらしく、GSO艇フォニオックの傍にいたマティが飛びだしていった。


(気味の悪ぃ新型も蹴散らしちまいやがった)

 オグルも驚くのには飽きてしまうほど。


 リトルベアはファイヤーバードや対処チームと合流して裏のルターナ・スク部隊も粉砕。ひと段落ついたところ。

 マティはフォニオックと超空間フレニオン通信を繋ぎっぱなしにしてくれているので現場げんじょうの会話なども筒抜けだった。ゴート遺跡の意図するところは不明だが。


「こら、どこいくのよ、リトルベア」

「あっちの始末。まだ作戦続行中だよ、ファイヤーバード」


 ショルダーマウントを換装した夜色のアームドスキンが艦隊へ向かうと直掩を排除しながら戦闘艦を支配していく。なにかを撃ちこまれると制御を奪われてしまうらしい。


「どうする気?」

「こうするのさ」


 フレネティは戻ってきたが、ルターナ・スク戦闘艦八隻は回頭している。加速すると表のルターナ・スク艦隊、防衛艦隊二百に向けて砲撃を行いながら突入していく。


星間G平和維P持軍Fおよび星間G保安S機構Oに告ぐ」

 防衛艦隊側からの通信。

「私は艦隊司令ロドリコ・マッスヘンである。所属不明艦からの攻撃を受けているので反撃を行う。これは防衛行動である。承知されたし」

「止めやしねえよ」

「こちら司法ジャッジ巡察官インスペクターファイヤーバード。所属の主張はともかく、防衛の権利は認めるわ。好きになさい」

 独り言ちた彼に続き、リーダーが認めた。


 互いに防御フィールドがあるので砲撃戦では傷はつかない。防衛艦隊側の発進させたアームドスキンが接近してビームを撃ちこんで沈める。一つ目の巨大な爆炎が花開いた。


「あーあ、かわいそうに。味方に沈められちゃってさ」

「あんたが言う?」

 ジュリアも呆れている。

「あの程度じゃ陽動にもなんないわよ? すり抜けるのは無理じゃない?」

「まあね。拿捕したかった?」

「どうせすぐにはしゃべらないし、あんたの監視のほうが優先」


(だろうな。諦めてるふうじゃねえ。こいつはなにか企んでる)

 オグルはそう読んだ。


「こちらのことなど気にせず本来の任務に励んでいただきたいものだ。そこのリトルベアなるテロリストは航宙保安事案の常習犯であろう? 捕縛しようとしないのであれば司法取引でもあるのかと勘繰りたくもなるもの」

 ロドリコが揶揄してくる。

「おあいにくさま。ここはトダルコートの領宙内なんだもの。あんたたちの防衛行動に口を出さないし、彼の犯行にも要請がなければ介入できないのよ」

「都合のいいことを。では、テロリストに教示してやることだ。この程度の攻撃で我が艦隊を突破するなど不可能と」

「たしかにね」


 八つ目の爆炎が確認できたところ。まったく容赦がない。あくまで不明艦の処理で貫くつもりらしい。


「どうするよ、リトルベア? やっこさんの言うことにも一理あるぜ」

 ディノに語りかける。

「テコーゾ軍襲撃事件の容疑があったから共闘したが、防衛艦隊相手となると頼られちゃ堪らんな。絶対に手ぇ出さねえぞ」

「当然さ。そこで観戦でもしてなよ」

「ああん?」

 単機で突っこむ気かと思う。

通常空間復帰タッチダウン反応、カテゴリⅣです。反応極大。総数は観測中です』

「なに?」


 今度こそは驚いた。ディノにはそんなすごい味方がいたのかと思う。


『総数は一万二千を超えるものと推定されます』

「こ……れは!」

『サイズ、形状から全てが戦闘艦ではありません。客船、貨物船なども確認できます。識別信号シグナルは発せられておりません』

 彼らの後方、外軌道方向に無数ともいえる航宙船がタッチダウンしてきた。

「おい、こいつは!」

浸透ペネトレイト

『OK、σシグマ・ルーンに接続するわ。全船舶の制御を』


 リトルベアのささやきにマチュアが応じる。それは恐るべき内容だった。


「まさかあれをトダルコートに落とすのか?」

「そのまさか。驚いた?」

「驚かいでか! ……あ! お前、なにかにつけて航宙船を奪ってはどこかに飛ばしてたのはこのためか?」

 思いだせば持っていかれた光景ばかりが浮かぶ。

「そうさ。べつに嫌がらせしてたんじゃないんだよ。このときの備えてずっと準備してた」

「このとんでもない数をか」


 それがディノの計画だったらしい。長期に渡り、ルジェ・グフト関連の艦艇船舶を襲ってはどこかに隠していたのだろう。積荷の処分をした事例などは単なる気まぐれか。


「あ!」

 ジュリアが突然声をあげる。

「さっきしてた話、あれは本当なの?」

「聞こえてた? 本当さ。今はもう死体ばかりだけど、中身は入ったまんま放置してた。結果は話してたとおり。ほぼ全てが殺し合いをして死んだよ」


 一万二千を超える航宙船である。乗員となれば数百万に及ぼう。その命が全て奪われたのだと思うと心中は複雑だ。


(やっぱり狂ってやがる。小僧はそのさまを平気で眺めてやがったのか)


「ちょっと、リトルベア。いくらなんでも聞き流せないわ」

 彼のもやもやを代弁してくれるのはいつもジュリアである。

「あんたのやったことはヤムリアのやっていることと同じよ。復讐のためなら同じことをしても許されると思ってるなら軽蔑するわ」

「そう言われても仕方ないね。実験台にしたのは事実だから」

「実験?」


 オグルにもその単語の意味が解らなかった。

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