捜査能力(2)

 ナダラSSのマキルはそのまま宙港に向かっている。それも監視の行き届いた地下トラムやキャブ、大通りまで避けて裏道をたどる。


「露骨ですね」

「本人的にはそうでもないつもりなのよ」

 そう言うとジュリアはエフェメラを呼びだす。

「出航便にナダラの警備を受ける船が結構いるはず。その中にポスタコルの便も混じってるから調べて」

「当ったりー! 予定変更で急に増えてる。んで、クスエド販機のマクランドラ号がポスタコルの出荷便。随伴警備艇ナダラK68の乗員にマキル・ボンボの名前があるよ」

「あからさまに過ぎません? 罠かもしれませんよ」

 エルドは不安を感じている。

「連中、迷彩かけてるつもりなのよ。あたしたちが宙港をメインに張ってると思ってる。数を揃えれば目標を見失うってね」

「でも、マキルまで使うって手駒が足りてないわけでもないでしょうに」

「マークされたあいつをさっさと裏に送りたいだけ。こっちの視界から消すために」


 惑星内、つまり領土内での捜査能力は低いと思っている。星間管理局が航宙保安や交易問題では主に惑星国家間の共有宙域、通称「共宙」を管轄領域とし、人権問題も文化風習に関しては追及が緩い面からの認識。

 星間警察も当然それに準じる対応をすると考えている。しかし実際には貿易関連や人権については上位権限を持って、高度な調査能力を有している。管理局側が緩いと思わせているだけなのだ。


「現場を押さえるわ。オグル、出港準備。管制には公務緊急発進で申請だしときなさい。あたしが戻りしだい出港して惑星軌道から尾行するわ」

「了解だぜ」


 エルドたちは宙港へと急いだ。


   ◇      ◇      ◇


「防御フィールド内にターナミストを充填。光学監視最大距離を隠密航行状態で追尾すんぞ」

「あい、キャプテン。ターナ霧放出っと」


 オグルの指示に従いエフェメラが電波変調分子を含んだミストの放出操作を行う。作戦中は操舵以外のかなりの部分を彼女が負担することになる。


「システム、ナダラK68をロック。ベクトル情報をオグルのパネルに転送」

『承りました』


 ジュリアも不敵な笑みで必要な指示を行う。エルドにしてみれば、こんなときぐらいは真剣な顔を見たいと思うが。


「ほらほら、餌を流してやってんだからさっさと食いつきなさいよ」

「不謹慎ですよ。クスエド販機の輸送船からしてみたら通常業務なんですから」

 一応は暴言だと指摘する。

「気にすることなんかないわ。どうせクスエドだって上のほうは把握していてルジェ・グフトから損失補填受けてんでしょうから。そうじゃなきゃ、とっくに管理局ビルに駆け込んでるじゃない」

「現実にはそうなんでしょうね。乗員には不運でしかありませんけど」

「目の前で殺されそうならあたしだって助けるって。でも、現に人命に危害が加えられそうにならない限り取り締まれないでしょ。一般人にも許されている逮捕権限の範囲じゃなきゃね」


 星間法違反でない限りはエルドのようなGSO捜査官にも一般人に認められる以上の逮捕権はない。それは司法巡察官ジャッジインスペクターも同じ。非常に面倒な立場である。


「そろそろ動くわ。超光速航法フィールドドライブ可能距離だから」

通常空間復帰タッチダウン反応なんか残したら足がついてしまいますもんね」


 時空域フィールドを用いた超光速航法は、時空界面を揺らして復帰することになるため強力な重力震を周囲に発してしまう。かなり遠距離でも検出可能だし、電磁波的に荒れていない宙域であれば、その規模から時空転移した質量も概算できる。

 記録に残ればそこから足取りを追うのも可能なので避けたがるだろう。つまりは超光速航法フィールドドライブをする前に輸送船の制圧を行うと予想されるのだ。


『ナダラK68がスロットを開放。機動兵器を放出します』

 人間では見分けられない変化をシステムが検出してナビしてくれる。

出動るわよ。現場押えといて」

「任されりー」

「フェムももっとまじめに」

 苦労が絶えない。


 ジュリアに続いて操縦室からキャビンフロアへ駆けあがる。それぞれの搭乗リフトを使ってコクピットハッチへと降りた。


「出撃するよ、シータ」

「了解。無事お帰りを」

 カルメンシータは作業アームにハーネスで吊られて作業デッキへと降りていく。

σシグマ・ルーンにエンチャント。スリーツーワン機体同調シンクロン成功コンプリート

 エルドのσ・ルーンがアームドスキンと同調して操縦可能状態になった。

「お先」

「続きます」

「あたしの魅惑的なお尻を眺めてなさい」


 ジュリアのアル・フィネアが足下のスロットから宇宙空間そとへと飛びだしていく。エルドのゼクトラもフットラッチが倒れると滑り落ちた。

 そこはまだターナミストの充填圏内なので探知されない。が、ひとたび防御フィールドを出たら向こうからも見えてしまうだろう。


「状況」

 レーザー通信で操縦席にリクエスト。

『五機のアストロウォーカーが探知されました。マクランドラ号を包囲します。ナダラK68、接近を停止しました』

「停止?」

「どうして止まったんでしょう?」


 普通ならアストロウォーカーで威嚇したあと接舷して制圧する。しかし、ナダラの警備艇は接近をやめたというのだ。


「様子が変ですけどどうします?」

「うー……、まあいいわ。武力行使が確認されてるから構わない。逮捕する。三機までは撃破を許可」

「いや、しませんから」


(アストロウォーカー相手にアームドスキンで苦戦すると思ってんですか?)


 今日何度目か分からない溜息のあとに、エルドは先行するアル・フィネアを追った。

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