捜査能力(3)
「またあんたかー!
「キャンキャン吠えない。今回は現行犯だから言い逃れできないわよ。覚悟しておくように」
すでに三機が大破して浮遊している。あとはマキル機と、エルドが相手している一機だけ。
(ぬるいわー。腕が鈍りそう)
最近のジュリアは閉口気味。
急速に進むアームドスキンの普及だが、民間に行き届くほどではない。なにせゴート新宙区からの技術開示が四年前。管理局の量産機計画から生まれたシュトロンが実戦配備されたのが二年前。民間への拡散はまだまだ。
国軍クラスになると、開示されたシュトロンの設計図から量産計画も進んでいたり、新宙区からの輸入を開始していたりする。だが、絶対数が足りていないのは否めない。
(もう三年、ううん、五年は犯罪の現場で使われたりはしないかも)
それはつまりジュリアが最新鋭機アル・フィネアでアームドスキンと交戦するケースが無いという意味。宝の持ち腐れと言われても仕方がない。アストロウォーカー相手ならば勝負にならないほどの圧倒的な戦闘力を発揮するのならば十分元は取れると思うしかない。
(情けないっちゃー情けないのよね。行ったことはないけど、あの宙区じゃ町工場でさえオリジナルを一機組み上げるくらいの技術があるっていうじゃない)
耳にしたときゾッとした。
(あそこのアドバンテージはとうぶん揺らぎそうにないわ。そのまま管理局のアドバンテージにも繋がるから文句言えないけど)
無重力だろうが重力圏だろうが自由自在に動きまわれる機動兵器。そんなものが拡散したら、この宇宙はひどくシンプルになっていきそうな気がする。
そうでなくとも一年前までは彼女も普通に軌道エレベータを利用していたのだ。それが今はどうだ。そんな手間を掛けていたのが嘘のように感じる。
(あたしや管理局の各機関が真の意味を問われるのは、アームドスキンが民間まであまねく拡散されたときかもしれないわね)
そんな思いを抱いた。
「往生なさい」
「冗談じゃねえよ!」
アル・フィネアの斬撃をかろうじて躱したマキルの機体がビームランチャーを向けてくる。その時には近接距離まで入りこんでいる彼女が右腕を刎ね飛ばしていた。
そのままグリップエンドを振りぬいて頭部を破砕する。胸部の中央にランチャーを突きつけて停止を呼びかけた。
「まだ抵抗する? べつにあんた一人くらいここで処してもたいして変わんないんだけどね?」
「わーった! 撃つな。降参だ」
「ほい、終了。エルド、そっちは?」
心配はしていない。
「確保しました。艇のほうの確保に移りますか?」
「そうねぇ……」
「K68、動けないみたい。こっちで照準したら投降してきたからもういいですよー」
フォニオックも接近してきている。ナダラ艇にワイヤーを撃ちこんで確保作業をすませた。
「ファイヤーバード、マクランドラ号がどうするか訊いてきてるけど」
エフェメラが判断を請う。
「急ぎならそのまま目的地に向かわせてもいいわ。このあたりに海賊なんていないって分かったでしょ。事情を聞く相手には事欠かないし」
「ほーい、一応輸送明けの出頭だけ要請して行かせるね」
ジュリアはナダラのアストロウォーカー全機を一度母船に戻らせた。
◇ ◇ ◇
武装解除してから一人ずつ聴取する。まずはマキルからだ。ここに及んで黙秘するとは思えない。あとはどこまでしゃべらせられるかである。
「はい、ちょっとぶり」
聴取卓に着かせて気軽に声をかける。
「会いたくねえよ」
「そんな意固地にならなくったって、本当はこの美人
「二度と会いたくなかったっつってんだろ!」
歯をむき出して喚く。
「っつか、電子戦仕掛けんなら最初からアストロウォーカーも動けなくすりゃいいだろ! いたぶるような真似しやがって」
「電子戦?」
「船を動けなくしたのはお前らだろうが! うちの連中、一切操作を受け付けなくなったって言ってんぞ」
彼女は眉根を寄せる。そんな指示をした覚えがない。
(フェムならできなくもない気はする。でも、あたしが命じてもないことしたりしないはずなんだけど)
あとで聞いておいたほうがいいだろう。
「ま、いいわ」
改めて容疑者の男に向き直る。
「どう足掻いたところで逃げも隠れもできないんだから。時間はたっぷりあるから仲良くお話ししましょ」
「仲良くしたくねえって」
「あー、悲しい。拷問したくなってきちゃった」
「おい、こいつ、大丈夫なんかよー、兄ちゃん!」
マキルは悲鳴をあげる。エルドは素知らぬ顔で録音状態をチェックしている。
(といっても、こんな下っ端が洗いざらいしゃべったところでルジェ・グフトまで繋がるわけないし。まずはナダラSSの関与を認めさせるとこから始めようかしら)
「そんなにあたしの顔を眺めたくないんなら、シャキシャキしゃべんなさいよ!」
「ダメだ、この女、ひとの言うこと聞いてねー!」
聴取卓に両肘を立てて顎の乗せるとジュリアは緑の瞳で睨みつけた。
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