ショートショート『うちの妹の話をしよう』
川住河住
ショートショート『うちの妹の話をしよう』
うちの妹はかわいい。
家に遊びにきた友達全員がかわいいと褒めたから間違いない。
うちの妹は頭がいい。
小学校から中学校までのテストで90点未満の答案を見たことがないから間違いない。
うちの妹は優しい。
毎年バレンタインデーになると手作りチョコレートをくれるから間違いない。
面倒じゃないか、と俺は聞く。
義理だから、と妹は笑う。
おそらく、本命の相手のついで、という意味なのだろう。
まだ幼いのにそんな気遣いができるとは、まさしく自慢の妹だ。
今年もバレンタインデーがやってきた。
妹は朝からキッチンに立っている。
俺はその姿を眺めながら完成を楽しみに待つ。
しばらくすると、できたよ、という妹の声といっしょにチョコレートケーキが目の前に置かれる。今年はこれまで以上に気合の入った一品だった。
しかし、本命の相手にはどうやって渡すのだろう。
ホールケーキを入れられる箱を用意するのか。
それとも自宅に招待するつもりなのか。
疑問に思っている俺の口に妹がフォークでチョコレートケーキを運んでくれた。
甘い匂いが鼻をくすぐり、ほのかな苦みが舌の上で踊りだす。
気がつくと俺はベッドにいた。
毎年そうだ。
妹の作るチョコレートを食べているといつの間にか眠ってしまう。
すぐにおいしいと伝えたいのに、コーヒーを何杯飲んでも眠気には抗えない。
そんな俺のことを怒らず、いつも妹はそばで見守ってくれている。
俺は今年で18才。妹はもうすぐ16才になる。
頼りになる男になる、と俺は誓う。
期待してるよ、と妹は笑う。なぜかお腹を撫でながら。
ショートショート『うちの妹の話をしよう』 川住河住 @lalala-lucy
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