第144話 パーティー目前

 次の日、セトとサティスは残り少ない休日を満喫するために再び街に訪れていた。


「なんだかんだあっという間だったなぁ」


「お休みってすぐに終わっちゃいますね」


「また仕事かぁ……」


「あら珍しい」


「え?」


「セトって割と仕事人間なのかなっと思ってたんですが、メンドクサイっていう風な感じでしたので」


「傷心してたとはいえ長い休暇だったからなぁ。なまっちゃって」


 楽しいことが過ぎ去り思い出になるときに感じる妙な寂しさ。

 今になってそれが微妙な重さで心にのしかかるのはなぜだろうか。


 そんなことをふと考えていたとき。


「こんにゃろーーーー!!」


「うぎゃぁぁああああ!!」


「な、なんだ?」


「向こうからですね。うわぁ、すごい人だかり」


 女性の怒号と男性の悲鳴。

 喧嘩だろうか派手な音が鳴り響いている。


 ヒョコっと覗いてみるとそこには数人の男女が気を失い、ひとりの女性が大男にまたがってボカボカラッシュを繰り出していた。


「人が目ェ見えねぇからって調子にのりやがってオンドリャアアア!!」


「や、やめ、ぐぶぅうううう!?」


「あ、あれって!!」


「チヨメさん!?」


 ふたりは人混みをかき分けて彼女を止めにかかる。

 

「あん? その声は……」


「チヨメ、俺だ! セトだ! なにがあった!」


「あぁセト! ちょっと待っててくんな! あと1000発くらい殴るから」


「やめてください死んでしまいます」


 チヨメとの再会に苦笑いを浮かべつつ、3人は場所を変えた。

 

「一体なにがあったんだ?」


「なぁに簡単なことさね。あンの連中が言いがかりつけてきて目ぇ見えないのバカにしてきたもんだから全員ブッ飛ばしてやったんでさぁ」


「だからってあんな風になります? ベンチも店の看板も滅茶苦茶でしたよなにしたんですか?」


「ブン回した」


「へ?」


「あと叩きつけたり投げ飛ばしたり」


「……相手に?」


「武器持ちだったからねぇ。さすがに素手じゃあどうにもならんでさ」


 見かけによらず意外に怪力な模様。

 しかしここで疑問が浮かぶ。


「素手って言ったよな? アンタの仕込み杖はどうしたんだ? 使わなかったのか?」


「あぁ……」


 チヨメは力なくそう言うと、杖を抜いてみせる。

 そこには見事にポッキリ折れた刀身があった。


「あっ! チヨメ、それって……」


「やられちまった。情けねぇったらありゃしねぇ。呪いまみれの男と戦ってこのザマさ」


「呪いまみれの男?」 


「……その男は操られてるだけさね。一番の元凶は隣にいた女のほうさ」


 そう呟くと怒りをにじませながらの納刀。


「セト、この辺で鍛冶屋ないかい?」


「鍛冶屋か。あるにはあるけど」


「そうかい。その、出会って早々なんですけどねぇ、案内ってできますかねおふたりさん」


 考えるまでもなかった。

 チヨメほどの使い手が敗北し、その剣が圧し折られるなんていうのはよっぽどだ。


 セトたちはチヨメを鍛冶屋へ案内する。

 この街一番の鍛冶師だ。


 チヨメの格好を見て、一瞬目の色を変えた鍛冶屋のオヤジは、彼女となにやらずっと話している。


「巫女さんよ。悪いがこの刀は俺には打てねぇ」


「どういうことで?」


「これを打った刀鍛冶は大物だぜ。オレも刀は何本か打ったことはあるが……これは祓いの刀だ。オレがやってもただの刀にしかならねぇ」


「そうですかい……」


「そうしょげんなよ。……ついてきな。いいもん見せてやる」


「あぁ、はいはい」


「……長くなりそうです。私たちは行きましょう」


 サティスはセトの手を引いて、再び街へ。

 サティス自身気にならないわけではない。


 呪いまみれの男や元凶のこと。

 チヨメのことも、単なる敗北ではなく、どこかで自分たちの事情と繋がっているのではないかと。


「……魔王軍も盛り返してきているようです。変な前兆でなければいいのですけどね」


「大丈夫だ。そのときは俺が守る」


「ありがとうございますセト。でも、私だって守られてばかりじゃありませんよ?」


「わかってる。サティスだけじゃない。きっと皆の力が必要になる」


「えぇ」


「……まずは楽しもう。俺腹減った」


「ふふふ、じゃあなにか食べましょうか」


「久々に寿司食べたいけど……あったっけなぁ?」


「えぇ、あるにはあるみたいですよ。ただ少し値段が張るようですね。……行ってみます?」


「いいのか? お金かかるんだろう?」


「たっぷり貯金はしています。たまにはパーッとやりましょう!」


「おぉ!」


 こうして寿司屋へと向かうふたり。

 ウレイン・ドナーグの街以上に上品な木造建築のそれに舌を巻きながらも、セトたちはその味に舌鼓を打つ。


 

 それぞれが未来に向けて歩みだす中、魔王軍でも動きがあった。

 

「おぉ、見事な魔法陣だ。これなら奇襲作戦も成功かな?」


「かなりの魔力を使いました。……しかし転移は片道切符も同然でして」


「かまわないよ。あくまで連中の出鼻をくじくのが目的なんだから。……奇襲部隊の構成は?」


 邪妖精イシスの指揮の下、編成された魔王軍奇襲部隊。

 目的地は『光の主人の船ラーウ・ホルアクティ』。


「楽しみだねぇ……そう言えば、来てるのかなぁ? サティス姉さん、セトってガキと一緒に」


 独り言ちに後ろ手を組み、奇襲部隊が来るのを待つ。

 今回は彼も出撃だ。

 

 と言っても表立って戦闘はしない。

 あくまで観察。


「さぁ、パーティーを始めよう!!」

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