第142話 王都に集う 前編

「おい~っす、今朝は早いわね。まだ寝ててもよかったんじゃないの?」


 昨日より早めの起床。

 朝食にはまだ早い。


 廊下を少し出たところで、忙しなく動いているグラビスと出会った。

 

「おはようグラビス」


「おはようございます。アナタこそ今日は非番では? 普段なら明け方まで飲んだくれて昼まで寝てるのに珍しいですね」


「ん、まぁね。ちょっと軽~い荷造りとか色々やってんのよ」


「荷造り? ……出るのか?」


「うん、ボチボチだけど、この屋敷を出る予定」


「グラビスも!?」


 セトは思わず声を張る。

 サティスも少し驚いた風に目を見開いていた。


「……レイドが今どこにいるか、その範囲がしぼりかけてきた。あとちょっと情報があれば、特定もできる」


「急だな」


「そうでもないわ。それに、アタシはやっぱりひとつのところにとどまるより、どこかうろついてるほうがいいのよ。あ、別にクライファノ家が居づらいとかそういうんじゃないんだけどね」


「まぁ、アナタは見るからにアウトローって感じですものね」


「英雄に憧れる根なし草……馬鹿みたいだろうけど」


「そんなことはないと思う」


「ふふ、あんがと。でさぁアンタらはどうすんの?」


「え、俺たち?」


「そ。……まぁアタシが口出しするのはおかしいと思うけどさ。……アンタらお互い今まで頑張ってきたんだから、ここに骨を埋めるってのもありなんじゃない? 永久就職ってやつ」


 グラビスから出る労りの言葉。

 その節々にはこれまでの感謝と祈りが込められていた。


「ありがとう。考えておくよ」


「そーよ。アンタはもういっぱしの男なんだから、サティスに甘えてばかりじゃダメよ」


「あら、セトは普段からしっかりしてますよ。誰かさん以上にね」


「ちょ、アンタはこの期のに及んでまぁだイジるか!」


「ふふふ、冗談ですよ。アナタもセトの、いえ、私たちの大事な友人です。アナタの無事を常に願っています」


「……あんがとね」


 そうこうしているうちに朝食の時間となったので3人で向かうことに。

 そんな朝食時のことだ。


 グラビスはベンジャミン村にいるリョドーに手紙を書こうとあれこれ思案を巡らせる。

 というのもやはり憧れの相手であるので、色々と悩んでしまうようだ。


 これまでも何度も手紙をしたためたが、どれもボツ。

 

「今の状況をそのまま書けばいいんじゃないのか?」


「……つまんないって思われるかも。いや、そもそもさぁ、あのころからもう何年も出会ってないから忘れられてるんじゃないかって思うと」


「それはない。アンタのことを思ってる風だったよ」


「セトの言うとおり、こんなことがあった、あんなことがあったって、そういう簡単な思い出話でいいと思いますよ? 読み手はそういうのが見たいんですから」


「そう、かなぁ」


「そうだよ。よし、俺もリョドーに手紙書く!」


「あら、じゃあ私もスカーレット夫人にお手紙を書きますね。お世話になってからずっと音沙汰なしにしてきましたから」


「オッケー、じゃあ昼過ぎにここの図書院に集合ね。時間は昼メシのときに言うわ」


「わかった」


「わかりました」


 こうして約束としたあと、セトたちはグラビスと別れる。

 少し街を歩こうということで、しばらくブラブラしていた。


「なぁサティス」


「はい?」


「あのとき勢いでさ、手紙書くってなったけど」


「どうかしましたか?」


「そう言えば俺、手紙の書き方わからなかったんだ。あと文字もあんま自信ない」


「あぁそういえば」


「だからさ、ちょっとでいい。教えてくれ」


「ちょっととは言わず、そのまま分厚~い本に囲まれながらお勉強なんてのはどうです?」


「う゛っ」


 セトの反応にクスクスと笑みながら、サティスは朝の賑わいに身を委ねていたときだった。

 ふと前方に見知った顔が歩いてくるのが見えた。


「あれは……」


「あっ!!」


 その顔にセトも驚く。

 そんなふたりの反応を見て嬉しそうに笑むその人物。


「久しぶりじゃあないかふたりとも。噂には聞いていたが、本当にこの王都に来ていたとは」


「オシリス!」


「アナタ、どうしてここに」


「どうしてもなにも召集がかかったのでこうしておもむいている。それ以上の理由はこのオシリスにはないっ!」


(いばらなくてもいいのでは……?)


「そ、そうか! それも正義か!」


「あぁ、正義(ジャスティス)だ」


(まぁたふたりで盛り上がってる)


 いちいち決めポーズを取るオシリスとそれに憧憬の視線を送るセトを見ながら、サティスは呆れたようにメガネを直す。


「ところで、ホピ・メサでは大活躍だったらしいな」


「え?」


「先日……いつだったか……ホピ・メサから来た少年たちが俺のところにやってきた。雑用でもなんでもいいから働かせてほしいとな。ビックリしたぞ。門前払いを決めていたが、お前の名前が出たものだから無視をするわけにはいかなくなってな」


「もしかして……ジェイクたちか! あぁ、無事に街まで行けたんだな」


「ふ、やはり知り合いか。……安心しろ。少年兵として動かすことはせん。だが、皿洗いに洗濯に掃除に武器磨きに……やれることはやってもらっている。コッテリな」


「ハハハ、そうしてやってくれ」


「……ところでセト、この街で変な男を見なかったか?」


「変な男? ……もしかしてホームズって奴か?」


「あれ、知ってるのか?」


「俺の知り合いに変な男はあの人しかいない」


「そうか。すでに知り合いだったのなら話が早い。この街で奴を見なかったか?」


「だいぶ前にひとりでメシ食ってたよ。そこで出会っておしゃべりした。なにかあったのか?」


「……奴との連絡が途絶えた」


「え?」

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