第47話 戦争勃発。セトは潜み、オシリスは舞う。
そして、魔王軍が来るかもしれないと予測していた日。
その予測は的中し、魔王軍は離れた場所に陣を敷いていた。
ウレイン・ドナーグの街にいつもの賑わいはなく、兵士達の張り詰めた緊張と闘気で重々しい空気が広がっている。
王都への増援要請は聞き入れられ、準備ができ次第来るとのことであった。
(敵は満身創痍、だが、かの魔剣兵士がいる以上油断は出来ん。奴ひとりで無双の力を出されでもしたら……増援が来る前に街を落とされる。この街に住む者達の希望が消えてしまうのだ)
オシリスは街を囲む城壁の上から魔王軍を睨む。
彼自身も自ら撃って出る覚悟はしていた。
この勝負はこれまでで最大の難関となるだろう、と。
一方、その街から離れた森の中では、ある人物が動いていた。
『……セト、聞こえますか?』
『あぁ聞こえる』
セトは森の中を注意深く進んでいた。
昨日から森の中へ潜伏し、魔王軍が来るのを待ち構えていたのだ。
魔王軍の到来と共に、彼奴等の陣地の近くへと移動していく。
『魔王軍の背後を突くには、その森をもう少し進んで頂いてから岩が数ある丘の方まで行かなければなりません。魔王軍はその先の方に陣を取っていますからね』
サティスは離れた場所にて、魔術によるテレパシーでセトと連絡を取っている。
『そこからは身を隠しながら匍匐前進でバレないように、だろ? 慣れてるよ』
『慣れているからといって油断はしないで下さいね。では幸運を、また連絡します』
サティスからのテレパシーが切れる。
テレパシーを連絡手段にするのはいい手だった。
離れていても的確な指示が貰える。
だが、唯一の欠点はサティスから連絡を貰えないと、こちらからは一切話しかけることが出来ない所か。
セトは魔剣適正という特異な能力を持ってはいるが、魔術に至っては才能の欠片もない。
よって魔術によるテレパシーはおろか、魔術すら使えないのだ。
(まぁ贅沢は言ってられない。……それに、俺はなにがなんでも生きて帰らなきゃいけないんだ)
セトはサティスが海で作ってくれた貝殻のアクセサリーを思い出す。
サティスからの初めてのプレゼントを貰ったときの感動は忘れていない。
今回の任務では失くしたり壊れたりするのを避ける為、サティスに預かってもらっていた。
必ず生きて帰って、サティスに会いに行く。
そして、もう一度あのアクセサリーを身に着けるのだ。
(もうすぐ森を抜けるな。……敵陣地を確認)
森の草陰と木々の間にしゃがみ紛れ、魔王軍の側面を睨みつける。
ここから見つからないように背後に回り込み、敵の総大将であるリザードマンを討つのだ。
しばらく敵陣の様子を確認すると、魔物達が前線へ出る為に、ワラワラと隊列を組み始める。
そんなとき、サティスからのテレパシーが脳内に入って来た。
『どうやら、そろそろ始まるみたいですね』
『あぁ、陣地内の魔物は少ない。……というよりも、前線に出る魔物もかなり少ないな。皆傷付いてる』
『あんなボロボロで戦争をしようだなんて……。一体魔王はなにを考えてるんだか。まぁいいです。今が好機ですね。そのまま進んでください。……見つからないように』
『あぁわかってる。……────これより奇襲作戦を開始する』
セトは重心を低く、しゃがみ込むような姿勢のまま、ときに草むら岩陰に隠れながら進む。
陣地の周りを警護する魔物がチラホラといるのが見えた。
彼奴等に見つからぬよう、慎重に進みゆく。
本来なら夜の方がいいのだろうが、セベクという魔剣兵士の危険性を考慮し、短期決戦で挑むことにした。
(サティスが作ってくれた草に擬態する為の布と……望遠鏡を使って……)
陣地が近くなれば完全に匍匐前進。
布を被り、隙間から警備の隙を伺う。
そのとき、前方から魔物達の雄叫びが聞こえてきた。
どうやら魔物達は街を落とす為に、突撃を繰り出したらしい。
(よし……警備の穴を見つけた)
セトは長年積み上げてきた隠密行動の能力をふんだんに使い、敵陣地へ潜入していった。
場所は戻り戦場。
街を守る為に集められた兵士や冒険者達の軍団と魔物達がぶつかり合う。
男も女も魔物も、敵対者を殺し、そしてその敵対者に殺されていった。
しかし、尚も人間側が有利。
その理由のひとつとして、オシリスの奮闘がある。
身に着けた魔装具による飛行、そして魔剣『
「この俺の魔剣からは逃れられんッ!!」
空中からの攻撃に次々と倒れていく魔物達。
しかし魔王軍もここで飛行可能な魔物を導入してきた。
オシリスの狙いは正確で、次々と撃ち抜いていくがまだ残りの魔物がオシリスの周りを高速で飛び交いながら火炎放射等を繰り出し、徐々に追い詰めていく。
「フン、やるな……だが、それでこのオシリスを仕留められると思ったら大間違いだッ!!」
バイザーの奥にある目から緑の輝きが溢れ出るや、空間からなんと
「
そう言って2つの魔剣を高速且つ華麗に指先でスピンさせる。
そしてしっかりと柄を握るや、飛び交う魔物達に一斉掃射。
「ぐぎゃあああッ!!?」
次々と肉体を抉られていき、地面へと落下していく。
その勢いは留まることなく、地上の魔物にも向けられ、次々と撃ち取られていった。
「おぉぉお……あれが、ウレイン・ドナーグの街の魔剣使いの力。なんと恐ろしい……ッ!」
ゴブロクが戦慄する中、人間相手に一切の容赦なく魔剣を振るうセベクは、オシリスの方に目を向けた。
「空中からの攻撃たぁ面白いじゃない」
「呑気に言っている場合かッ!? なんとか出来んのか!?」
「ハイハイ、やってこりゃいいんだろ? ……だがその前にアンタまだ迷ってんのか? ここ戦場だぞ? 死ぬよ?」
「……女子供を斬りつける刃は持ち合わせていない」
「だからって峰打ちか逃がすかをやるなよ。魔物だろがよ。殺せよ。敵だぞ。ガキのチャンバラじゃねぇんだ」
「ゴブリンである前に、俺は武人。たとえ戦場と言えど己が刃に女子供の血が付くなど、恥辱でしかないッ!」
「ワッケわかんねぇ。戦場出れば男も女も変わんねぇが……よッ!」
そう言って背後から斬りつけてきた女性剣士の刃を躱し一突き。
それを見たゴブロクは一瞬顔をしかめるが、すぐにやってきた人間達に刃を向けられ、彼は再び剣を構える。
「……未熟モンが」
「俺は、頭がおかしいのだろうな」
「知るかよ。……ん?」
オシリスの相手をしようと思った直後、ふと彼は自軍の陣地を見る。
陣地内の様子が少しおかしいことを瞬時に見抜いた彼は、薄ら笑いを浮かべた。
「ゴブロク、ここは任せたッ!」
「な、なにぃ!? お、おいッ!!」
ゴブロクの声も虚しく、セベクは嬉々とした笑みを零しながら自陣へと走っていった。
半人半魔のその脚力や凄まじく、すぐに陣地まで辿り着く。
そこで彼は、信じられないものでもあり、彼自身が望んだ大いなる歓喜の対象を目の当たりにした。
「素敵な出会い……見ィ~ッけ!」
そこには陣地内で魔剣を振るい、魔物達を掃滅していく
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