第41話 戦いの後で久々のデートタイム

「いやぁ~、実にいい戦いだった。久々に燃え上がったぞ」


 執務室でセトとサティスと共に紅茶を愉しむオシリス。

 先ほどの戦いが嘘のようにピンピンしている。


「なぁ、その空が飛べる鎧はどこに売ってあるんだ?」


「売っているのではない。魔術師達に作らせた特注品だ。俺の力と正義(ジャスティス)を十分に引き立てる最高の防具さ」


「……なぁサティス」


「ダメです」


「まだなにも……」


「同じようなの作って欲しい、とかでしょう? そんな余計なことに使う魔力はありませんッ!」


「うぐぐ……」


 静かに紅茶をすするサティスにおねだりするも拒否されたセトは、困ったように項垂れる。

 こうして見ると姉と弟に見えなくもない。


 オシリスは彼等のやり取りを見て、頬がほころぶ。

 彼自身が常日頃から守りたいと思う光景が今そこにあるからだ。


 しかし、こうして和む中、オシリスはセトの要件のことを切り出す。

 話したいことがあるからこそ、彼等をこの執務室に再度いれたのだ。


「あぁ、すまない。これは俺達にとっても大事な話なんだ」


「言ってみろ」


「────今現在の魔物達の動きはどうなんだろう、って思ってさ。ホラ、俺達のことはもうわかってるだろ? 俺はサティスと一緒にいたい。だけどもしも魔物とかがここへ攻めてくるようなことがあれば……」


 セトは手紙の内容のことは話さず、それに関連することを聞いた。

 軍人であるオシリスなら、今の戦況や魔物の動きに関しての情報が聞きだせ、今後上手く立ち回れるかもしれない、と。


「……なるほど。そういえば今のお前達はかなり特殊とは言えど、ただの観光客だったな。気になるのはもっともな話だろう。だが、そういった軍事の情報を観光客に明かすわけにはいかんなぁ」


「そりゃあ、まぁ……」


「ハッハッハ、心配するな。全てではないが俺に勝利した報酬として、特別に教えてやろう」


 そう言うや、オシリスは地図を取り出しテーブルに広げて簡単に説明する。


「魔王軍は劣勢から……そうだな、善戦というくらいには勢いを取り戻している。もっとも、ここから人類に逆転するのは現状難しいだろう。魔王幹部であったお前……サティスが抜けてから統制にガタがいっているようだ」


「わ、私が? それはなぜ? 魔王軍の圧倒的な力だけでは巻き返せなかったと?」


「奴等の力が各国の軍にことごとく打ち破られている。……まったく、優秀なブレインを上手く扱えんとは。これだから野蛮な魔物は……おっと失礼。ともかくこのまま行けば魔王軍の壊滅も時間の問題だろう。俺にも召集がかかると思っていたんだが、これでは俺の出る幕もないだろうな。セトの"この街に来るのではないか"という懸念だが、全くもって問題ない。見張りからの連絡も、そういった情報は入ってないしな」


「そう、ですか……」


「まぁ俺が本気を出せば魔王軍くらいすぐにでもぶっ飛ばせるがな! フハハハハハッ!!」


 オシリスは余裕の表情を浮かべて笑っている。

 試合形式かつ殺傷能力を下げた上での戦いであったとはいえ、セトに負けた男の台詞とは思えない。


 それはハッタリや強がりではなく、確かな自信があった。

 セトの力も未だ計り知れないが、オシリスの力ももしかしたら実は想像の上をいくのかもしれない。


(魔剣使いって、皆こうなんでしょうか?)


 魔剣使いの可能性にやや呆れ気味になりながらも、オシリスの話を聞き、セトの代わりに分析を行っていく。

 隣りのセトも自分の考えられる範囲で、考察を繰り返し、オシリスに質問等をしていった。


「────……とまぁ、ここまで話したが。ともかくここは安全だ。魔王とてバカではない。変な気狂いでも起こさん限りはな。……お前達は観光客だ! ゆっくりとしていくがいい」


(気狂いでもしない限り、か。……逆にイカれてたらあり得るって話か。まぁ……今の所は大丈夫、か?) 


「う~ん、確かに魔王は短気な所はありますが、無駄なことをするヒトではないですし。……そうですね。私達は観光客。戦争とかそういうの無しで穏やかにしていたいです」


 サティス自身、最近の魔王の様子を知らない。

 彼がこの戦況をどう思っているか等は、流石に詳しく推し量ることが困難だ。

 そもそも、もうそんなことを考える必要もないし考えたくもない。

 

(セトと暮らせる一日一日……私はそれだけを考えていたい。私の願いはそれだけ……)


 サティスは密かに思いを寄せる。

 先ほどの決闘は彼女にとっては冷や汗ものだったが、またこうしてセトと穏やかに時間を過ごせると考えると、少しずつ胸が躍って来た。


「ありがとうオシリス。お陰で色んな話が聞けたよ」


「俺に出来るのはこれくらいさ。この街で困ったことがあったら我々を頼るがいい」


 話し合いを終えて、セト達は施設から出て街へ出た。

 オシリスとの交友を持てたのはある意味では僥倖だ。


 なにかトラブルがあれば、彼が力になってくれる。


「オシリス……いい奴だったな」


「もしかして、セトってあぁいうのカッコいいって思うんですか?」


「え? カッコいいだろ実際! 空飛ぶ鎧にあの魔剣だぞ!? なにより決めポーズ。なんかこう、心にグッとくるモノがあった。わからないか!?」


「ん~、ごめんなさい。私にはちょっとわかりません」


「そうか、でも大丈夫だ。きっとサティスにもわかる日がくる」


「えぇ~」


 街を歩く中、お互い逸れぬよう手をつないだ。

 そういえばこうして手をつないで歩くのは久しぶりだろうかと、セトは考えた。

 クレイ・シャットの街では普通につないでいたが、ベンジャミン村からはここまでの道中はなかったような気がする。


「なぁ、昼まで時間あるしちょっと歩いてみないか!」


「あ、あの戦闘の後によくそんな元気がありますね」


「大丈夫だ。俺はサティスと一緒に楽しくしていたいんだよ」


 セトの言葉にサティスは安堵の息を漏らす。

 自然とお互いの握り合う手が強くなった。


「なぁ、あそこに登ってみよう。海とか山とかが一望出来るらしいぞ!」


「元気ありまくりですねぇ。わかりました。さぁ行きましょう」


 街の高台は見晴らしがよく、絶景スポットとしても有名らしい。

 とりあえずセトとサティスはそこを目指した。


 その後のことは着いてからゆっくり考えることとして。


  

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