第38話 オシリスはセトとサティスを見極めようと眼光を走らせる
「俺は、夢でも見ているのか……? 夢であって欲しいな。行きつけの店が無法者に穢された。しかしかの有名な魔王軍幹部が少年と共に無法者を制した、と。……実に奇妙な巡り合わせと思わんかね?」
この街に存在する兵士達の施設。
そこのトップである魔剣使いのオシリスは、執務室にセト達を招き入れてソファーに座らせていた。
魔王幹部のひとりサティスと魔剣使いではあるが素性もわからぬ少年(セト)。
彼等を招き入れるなど、本来このような行動は上に立つ者として慎むべきであり、実力者として軽率であろう。
だが、オシリスの瞳は真実を見極めようと黄金に勝る輝きを以て2人を見据えていた。
身分や立場、情勢という固定観念とはまた別の視点を以て、自らの持つ疑問とも向き合う。
「まずは自己紹介だ。俺の名は知っているだろう? 『
執務机の前に座る彼は、自信満々の笑みで答えながらも、眼光鋭く2人の反応や心理を探る。
サティスはオシリスと今日まで面識はなかった。
だが、オシリスは彼女を見たことがあり、彼女もまたオシリスの情報は耳にしている。
彼の実力を知るがゆえの恐怖、そしてここが魔物と敵対する人間達の巣窟である為か、サティスは自己紹介を躊躇っていた。
そこでオシリスは疑念を抱く。
彼の知っているサティスなら、得意の話術なりハニートラップやらで、常に優位に立とうとする。
しかし今のサティスは、まるで親に怒られるのが怖くて怯えているただの生娘だ。
(やはり妙だ……奴の弱気な態度。……だがそれ以上に奇妙なのは、アイツの意識は俺ではなく常にあの少年に向いていることだ。……この少年の正体、知らねばなるまい)
オシリスは笑んだ表情を崩さぬまま、セトの方に視線を向ける。
自己紹介してくれと片手で軽くジェスチャーしてみせた。
セトはそれに応じようとしたとき、サティスの手が彼の腕を軽くつまむように掴んだ。
その所作をも見逃さなかったオシリスは、ますます疑念を深める。
あれは止めたというよりも、迫る恐怖に対し温もりを感じて気持ちを和らげようとする咄嗟の動作にさえ見えた。
「俺は、────セトだ。隠しても無駄だろうから言っておく。魔剣使いだ」
「……セト? お前、『破壊と嵐』か? お前の噂はずっと耳にしていた。幼いときから魔剣適正を持ち、あらゆる強者と死線を魔剣にて制してきた伝説の少年兵セトであると!」
「誇張表現が過ぎてるな。俺は
「カッハッハッハッハッハッ! 意外に流暢に喋るなお前はッ! 気に入ったぞ」
「気に入られてもな……」
「そう言うな。……しかし、いや、
オシリスが目を細める。
いつの間にか出されていたであろう紅茶は、すでに冷めきっていた。
三人共口を付けず、静かな紅茶の表面をいつまでも映し出している。
それほどまでに荘厳で緊張漂う空間と相成ってしまった。
オシリスに嘘は通じない。
きっと満足のいくまで何度も言及するだろう。
「……あるかもしれません」
静寂の中、サティスが口を開く。
自然とオシリスの視線も彼女の方へ向いた。
「ご存知の通り、私はかつて魔王軍にいました。ですが度重なる失態により、私は魔王軍を追われたのです」
「追われた? ……お前ほどの知恵者が」
「命からがら逃げて、途中の森で出会ったのか、セトなんです」
サティスはセトとの出会いとこれまでのことを掻い摘んで話す。
無論その内容の中には、セトがかの勇者一行に所属していたことも含まれていた。
「なるほど……大体把握した。お前達には敵対意志はなく、ただ静かに2人で生きていたいと」
なんという愛の逃避行であろうか、とオシリスは呟く。
この組み合わせからして複雑な事情はあるだろうと予感はしていたが、まさか歴史の裏でこんな物語が展開していたとは夢にも思わなかった。
「それで、アンタは俺達をどうするつもりだ?」
「ふぅむ……そうさなぁ、どうして欲しい?」
「出来れば放っておいて欲しいです」
「だろうな。だが悲しいことに俺は組織に属する人間。無論俺にも権限のひとつやふたつはあるわけなんだが……」
しばらく考えると、オシリスはセトの方を見てニヤリと笑う。
「明日の朝、もう一度この施設へ来るように」
「なんだって?」
「捕らえる、にしては随分効率が悪いですね」
「ククク、そうではない。まぁ来ればわかるさ」
約束の内容を濁したまま、オシリスは直々に2人を施設から見送った。
去っていく2人の背中を見ていると、兵士のひとりがオシリスに話しかける。
「よろしいのですか? 彼奴等をこのまま返しても」
「とんでもない。まずは監視・観察だ。明日の
「趣向、ですか……。とても楽しそうですね。隊長は……」
「楽しいとも。これだから魔剣使いの性は恐ろしい。同じ魔剣使いを見ると、どちらが上かをつい決めたくなってしまう。────訓練所の闘技場を整備しておけ。明日、『
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