第14話 魔王軍には暗雲が、勇者一行には凶刃が。
あれから数日が経ったある日。
魔王軍は人間達の抵抗に対して苦戦を強いられていた。
攻め込む国々の兵力と策謀に圧倒させられ、魔物達は戦場で統率を失い、次から次へと葬り去られていく。
かつて広大だった魔王領も、人間達によって徐々に占領され、住みよい場所へと清められていった。
「えぇい! 圧されておるではないか!! ……貴様等、サティスに次ぐ知恵者と言うからアイツ以上の待遇をしてやったというのに……一体なんだこのザマは!?」
魔王の怒号と杯を床に投げつける音が魔王城の王の間に響く。
玉座の前にて魔物達はビクビクと震えながらも、魔王に頭を垂れ平伏していた。
「申し訳ございませぬ魔王様。だしうる限りの策を練ってはいるのですが……」
「人間共の力は侮れませぬ。……正直申し上げますと、サティスが人間達の軍に対して策謀を練っていた頃より、ずっと勢いが……」
「たわけッ!! ……じゃあなにか? あの役立たずがいた頃よりも、我等の力が弱体化したと言いたいわけか!?」
「いえ! そのようなことはございませんッ! ……ただ、人間達の中にも機知に富んだ者が多々いるようで、彼奴等は常に我々の裏をかきます。力で圧倒することに長けた魔物にとっては極めて不利な状況に立たされております」
「……サティスの策謀のお陰で、今まで我等の常勝が成っていたと。そう言いたいのか? アイツを幹部から外し、屈辱と恐怖にまみれさせ、処刑しようとした我の采配ミスであったとッ!? あの者は自ら勇者達に挑み、何度も失態を繰り返した! そんな奴を、処分するべきではなかったと言いたいのかッ!?」
魔王が怒りを露わにし、勢いよく玉座から立ち上がり、魔物達を睨みつける。
しかし事実、サティスは人間達の軍勢相手によくやってくれていた。
本来なら勇者一行は他の幹部に担当させるべきだった。
だが、彼女は武功を上げることを望んだ。
もしもあのときサティスを説得し、そのまま国との戦いを指揮させ、他の幹部に勇者一行を任せていれば結果は違ったかもしれない。
彼女は戦争と戦闘を両立させて、少しでも魔王に尽くそうと必死だった。
今から冷静に思い返せば、幹部職の剥奪及びリンチに処刑というのはあまりにも早まったかもしれない。
戦争においても勇者一行においても、中々望み通りの結果が出ない日々が続く中、魔王もあのときはかなり焦燥していた。
その結果、サティスを痛めつけた挙句、処刑当日に逃げられたのだ。
彼女の代わりはいるだろうと高を括っていたが、結果は著しくない。
現にこうしてサティスの抜けた穴が埋められないのだ。
このままでは人間達の侵攻を許してしまう。
「……捜せ。急ぎサティスを捜すのだ!! 彼奴はまだどこかに潜み生き抜いているはず。ここへ連れてこいッ!」
「しかし魔王様。近隣の森や領土はすでに探索済みです。これ以上踏み込めば人間達の更なる攻撃を許してしまう可能性が……」
腹心の魔物の1匹が進言する。
魔王は歯軋りをしながら黙りこくってしまった。
その邪悪な表情には、明らかに憤怒が現れている。
「……負けるか。我々魔物はこの世で最も優れた存在。我々魔物が負けるはずないのだッ!!」
魔王としてのプライドが、彼の心に火をつける。
魔物こそ至高、魔物こそが上位に君臨する生命体なのだと。
「……フン、まぁいい。サティスなんぞの小賢しい策を使わずとも、魔物の象徴たる圧倒的な力でねじ伏せればよいだけだ。……このまま各国の軍勢に攻撃せよ! 奴等の機知とやらも我等の圧倒的な力で破壊するのだッ!!」
プライドはとことんまで判断を鈍らせる。
魔王の言葉に王の間に集結していた魔物達は雄叫びを上げ、魔王に勝利を誓う。
例え泥沼の戦争になろうとも、彼等は戦う気でいた。
そして魔王はある決断をする。
「我が僕達よ。我はある決断をする。純血の魔物諸君にとっては極めて不快なことであろうが……」
「ま、まさか……奴を……。あの"元人間"を導入するおつもりか!?」
「そうだ。後天性の魔人……半人半魔となったあの男。魔物としてもハンパ者の力を使うのはいささか不愉快ではあるがな……」
魔王城の魔物達の中には何百年と生きる者もおり、魔王もその一角を成す。
その中の大半は懐古主義者であり、伝統や血統を重んじる者が多い。
その為、元人間で後から魔物となった存在は下に見ることが常であった。
どれだけ実力があっても純粋なる魔物ではない為、雑兵をやらされることが多いのだ。
────だが、これから導入していく者は、実は規格外の存在。
その"男"は今、ゴブリン部隊と共に行動し、谷を越えた場所にいる勇者一行を追い詰めようとしている。
「かつてその男はある王国の元少年兵であると同時に、
「ですが……奴は元人間の出来損ないです。我等高等なる存在である生物が……あのような気狂いに」
「フン、かまわぬ。ああいう戦闘狂はとことんまで利用するに限る」
こうして、ゴブリン部隊への伝令が急ぎ送られる。
空を飛ぶタイプの魔物はゴブリン部隊の行く先へと飛翔した。
時代は大きく動こうとしていた。
魔王の言うあの男、狂気に満ちた魔刃の持ち主は、一歩また一歩と進んでいく。
強い敵と出会う為に。
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