第249話 番外編『膝枕(高校生編)』

 

 その散歩コース地元民から「千本桜道」と呼ばれている。

 その名の通り千本の桜が道のように川を沿うように植えられていてお花見スポットとして有名だった。


「まだ桜は咲いていませんね」

「そうだな。でも、もうすぐ咲くんじゃないか?」

「満開になったらお花見をしに来ましょうね」

「去年はできなかったもんな」

「六月でしたもんね。私たちが再会したの」


 俺と姫香が再会したのは六月。

 あの頃にはもうすでに桜はすべて散ってしまっていた。


「五歳の時に一回だけやりましたよね。お花見」

「お花見っていうか、この道を歩いただけだったけどな」

「そうでしたね。今年は本格的なお花見をやりたいですね」

「だったらここじゃない方がいいな。お城跡とかに行くか?」

「いいですね。そうしましょうか」


 ゆっくりと千本桜道を歩いて、俺たちは家に帰った。

 

 ソファーに座って読書をしていると急に眠気が襲ってきた。

 大きなあくびをすると「翔君。眠たいのですか?」と姫香が聞いてきた。

 隣に姫香も座っていて、本を読んでいた。


「ちょっとな」

「眠たいなら寝てもらっても構いませんよ。起こしてあげますので。なんなら膝枕してあげましょうか?」


 そう言って姫香は本を閉じると自分の膝をポンポンと叩いた。 


「それはよく眠れそうだな」

「私の膝の上で寝ますか?」

「いいのか?」

「もちろんですよ。この膝は翔君専用ですから」

 そんなことを言われて断れる男がどこにいるだろうか。 

「それじゃあ、少しだけ寝てもいいか?」

「どうぞ。ゆっくりと寝てください」


 俺は姫香の膝の上にゆっくりと寝転がった。

 最近の姫香は家では露出多めの服を着ている。

 上はまだ露出少なめだが、下は短パンだったので生足だった。

 初めての姫香の膝枕に俺は少し緊張していた。


「どうですか? 私の膝枕は」

「どうって言われてもな……」


 どの言葉で感想を言うか迷った。

 俺が迷っているのに気が付いた姫香が「素直な感想を言ってくださいね」と笑った。


「素直な感想か。よく眠れそうだな」

「むぅ、逃げましたね?」


 姫香は頬を膨らませて俺のことを見下ろしてきた。


「何のことだ?」

 姫香の言う通り素直な感想を言うのは恥ずかしかったので逃げた。


 どうやら姫香にはお見通しだったらしい。


「いいです。いつか素直な感想を言わせてみせますから。これから時間はたくさんあるのですから」


 そう言って姫香は俺の頭を撫でてきた。

 頭を撫でられていると少しずつ俺は微睡みの中に追いやられた。

 姫香に頭を撫でられている時間は心地が良かった。

 俺は気が付けば眠りについていた。

 

 

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