第247話 番外編『七夕』

 彦星と織姫は年に一度、七月七日にだけ会えるらしい。

 今日はその七月七日だった。

 彦星と織姫にとっては特別な一日かもしれないが、俺たちにとってはいつもと何も変わらない普通の一日だった。

 いつものように姫香と勉強をしたり、読書をしたり、テレビを見たり、まったりとした時間を過ごした。

 今日は姫香がご飯を作る番だったので俺がお皿洗いの当番だった。

 お皿を洗い終え、リビングに戻ると姫香が何かを作っていた。


「何やってるんだ?」

「短冊を作ってました」

「短冊? 七夕の?」

「はい」

「どうしてまたそんなことを?」

「そういえば去年はやらなかったと思いまして。せっかくなら短冊だけでも書きたいなと思ったんです」

「そっか」     

「翔君は短冊に願いごとを書いたことはありますか?」

「幼稚園の時に一度だけな」

 

 その時の願い事は今でも覚えている。

 姫香と別れた翌年に書いたその願い事は実は叶っていた。


「姫香は? 書いたことあるのか?」

「私は毎年書いてました」

「じゃあ、なんで去年は書かなかったんだ?」

「それは毎年書いていた願い事が叶ったからですよ」


 短冊を作る手を止めて俺の方を向いた姫香は微笑んだ。

 一体どんな願い事を書いていたのだろうか? 

 

「私がどんな願い事を書いていたか気になりますか?」

「まぁな」

「私が願うことなんて一つしかないと思いますけど?」

 

 姫香は「私の願いが分かりますか?」とでも言いたげな笑みを浮かべた。 

 正確には分からないが、これだったらいいなというのはある。

 

「もしかして俺が書いた願いと一緒だったりするか?」

「翔君が書いた願い事がどんなことなのか分からないですけど、おそらく同じなんじゃないですか?」

「俺が幼稚園の時に書いた願いは姫香とまた会えますようにだったよ」

「一緒ですね。私も翔君とまた会えますようにってずっと書いてました」

「そっか。じゃあ、二人の願いが通じてまたこうして会うことができたんだな」

「そうかもしれませんね」


 ほんとまたこうして姫香と一緒にいることができて幸せだ。

  

「できました。翔君も書きますよね?」

「せっかくだし書こうかな」


 姫香から短冊とペンを受け取った。

 さて、どんな願いにしようか。

 正直、姫香と一緒にいること以外の願いはない。

 ただ、それをそのまま書いても面白くないよな。 

 

「なんて書くか決まりましたか?」

「悩み中。姫香は?」

「私は書くことは決まってますから」

「そうなのか」


 姫香はどんな願いを書くのだろうか。

 それが俺関連のものだったらいいなと思うのは傲慢すぎるだろうか?

 姫香がベンを走らせたので俺も願いを書くことにした。

 何か捻ろうかと思ったが素直な気持ちを書くことにした。


「書けましたか?」

「あぁ、書けたよ」

「見てもいいですか? 私のもお見せするので」

「見るなって言っても見るだろ」

「もちろんです」

「見てもいいかって聞く意味な」


 俺は苦笑いを浮かべて願いを書いた自分の短冊と姫香の短冊を交換した。

 姫香の書いた願いは・・・・・・。


「ふふっ、どうやら同じことを考えてたみたいですね」

「みたいだな」


 昔も今もお互いに願うことは変わらないらしい。

 俺は姫香のことを、姫香は俺のことを昔も今も想い続けているということだ。

 そしてきっとそれはこれから先も変わらないことだろう。


「それでこの短冊はどうするんだ?」

「翔君がいいなら壁にでも飾っておきませんか?」

「いいぞ。どこがいい?」

「そうですね。目につくところがいいですね」

  

 そう言って姫香は部屋の中を見渡した。


「本棚に貼るのはダメですよね?」

「別にいいけど」

 

 姫香は立ち上がって本棚のところに向かった。

 

「こことかどうですか?」

 

 本棚の側面を指さして言った。 

 そこに貼ることは何の問題もないので俺は頷いた。

 

「ではここに貼らせてもらいます」

「どうぞ」


 姫香にセロハンテープを渡した。 

 姫香は二人分の短冊を本棚の側面に綺麗に貼った。


「いい感じですね」

  

 短冊を綺麗に晴れて姫香は満足そうに微笑んだ。


☆☆☆

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