第241話 番外編part9 2月3日③
「節分だー! 豆まきだー! 翔、鬼役やってー!」
玄関の扉を開けて、赤鬼のお面をつけた真美に開口一番にそう言われた俺は扉を閉めたくなった。
というか、本当に締めようとした。
「ちょ!? 何閉めようとしてるの!?」
「だって、鬼は外だろ」
俺がそう言うと真美は「私だから!」と慌てて鬼のお面を外して顔を露わにした。
「ああ、なんだ。真美か」
もちろん気づいていたがわざとそう言った。
「翔君。真美さんの声がしましたけど来ましたか?」
俺たちがそんなくだらないやりとりをしていると
リビングから姫香が顔を出した。
「姫香ちゃんー! 翔が意地悪する〜」
そう言いながら姫香めがけて走って行った真美はそのまま姫香に抱きつく。
「真美が変なこと言うからだろ」
扉に鍵を閉めて俺もリビングに向かった。
「私はただ翔に鬼役やってって言っただけなのに〜」
「真美さん。それは・・・・・・」
姫香なら否定してくれるはずだ。
「ぜひ、翔君にやってもらいましょう!」
「おいっ!」
どうやら姫香は真美の方についたらしい。
深紅の瞳をキラキラと輝かせて俺のことを見ていた。
「絶対にやらないからな」
「翔君が鬼役やってるところ、見たいです」
俺に近づいてきて、上目遣いに見めてくる姫香。
元女優のその演技力はさすがの一言。
だけど、俺は屈しない。
この歳になってあのお面をつけて鬼役なんてできるか!?
歩や真美みたいな性格ならともかく、俺がやるなんてありえないだろ。
恥ずかしすぎる!?
「ほら、姫香ちゃんもこう言ってるよ?」
「姫香をだしに使うとか卑怯だぞ」
「私は何も言ってないもん〜。姫香ちゃんが言ってるだけだもん〜」
「ダメ、ですか?」
徐々にその瞳をうるうるとさせていく姫香。
ずるい。
そんな瞳で見つめられたら、嫌でも頷くしかないだろ。
ましてや、相手は姫香だ。
俺の好きな人だ。
好きな人にそんな瞳で見つめられて首を横に触れるやつがいるだろうか。
だから、了承する代わりに条件を出すことにした。
「分かったよ。やるよ。その代わり、来年の節分は姫香が鬼役をやること。じゃないと俺はやらない」
「そ、それは・・・・・・」
「いいねそれ! 姫香ちゃんの鬼役見たい!」
今度は俺の側についた真美。
二対一になって自分の方が不利になった姫香は戸惑いの表情を浮かべていた。
「別に姫香のことをいじめたいわけじゃないが、俺がするなら姫香もしないと不公平だろ? それに俺だって姫香の鬼役やってるところ見たいしな」
「翔君の鬼・・・・・・私が鬼をやる・・・・・・」
少し下を向いてブツブツと姫香は呪文のように何かを言って、やがて覚悟を決めたのか、頬が少し赤くした顔を上げた。
「わ、分かりました。恥ずかしいですけど、翔君の鬼役を見たいので、わ、私もやります」
「そ、そうか・・・・・・」
「じゃあ、決まりね! はい、これ! 豆まきする時になったら付けてね!」
真美は俺に赤鬼のお面を渡してきた。
それを受け取った俺は真美に聞いた。
「そういえば、歩のやつはどうした? いつも二人セットだろ」
「歩はね〜。少し遅れてくるって〜」
「珍しいな」
「まぁ、いろいろとあるのよ。準備がね!」
「準備?」
「なんでもない〜。こっちの話」
そう言って真美は楽しそうに笑うと、家に来る途中で買ってきたであろう豆を袋の中から取り出してテーブルの上に並べ始めた。
一体どれだけ投げるんだってくらいの豆の量に驚きつつ、俺がソファーに座ると姫香も隣に座ってきた。
「翔君の鬼役楽しみにしてますね」
「言っとくけど演技なんてできないからな」
「そんなのはどうだっていいですよ。ただ、翔君が鬼役をやることに意味があるのですから」
「どんな意味があるっていうんだよ」
「そうですね〜。いつか分かりますよ」
姫香は意味深にふふっと笑った。
俺が鬼役をするのにどんな意味があるのだろうか。
考えたところで今は分かりそうになかった。
☆☆☆
次話に続く!
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