第240話 番外編part8 2月3日②
姫香が目を覚ましたのは翔斗がお腹を空かせて泣いた時だった。
「すみません。寝てしまいました」
「そんなこと気にしないでいいよ」
俺の腕の中で泣いている翔斗を姫香に渡すと、姫香はソファーに座って翔斗に授乳を始めた。
「そういえば、ベッドまで運んでくれたんですね」
「うん」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
翔斗の授乳を終えた姫香はすぐに夕飯の準備に取り掛かった。
窓の外はすっかりと暗くなっている。
さっきまで一緒におままごとをしていた美姫はすやすやとソファーの上で眠っていた。
「美姫ちゃん、寝ちゃったんですね」
「うん。さっきまで楽しそうにはしゃいでたけどな」
「遊んでくれてたんですか?」
「まぁな。一緒におままごとしてた」
「おままごとしてたんですか!? それは見たかったです」
「いや別に普通のおままごとだぞ?」
「翔君がおままごとしてるところなんて滅多に見れないじゃないですか!」
姫香は興奮気味にそう言った。
「なんで寝てしまったのか……悔しいです」
「そんなに悔しがることか?」
「悔しがることなんです!」
「そ、そうなんだ」
本当に悔しそうにしている姫香に対し俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
だからといって「三人でやるか?」という提案はさすがに恥ずかしいのでできない。
「見れなかったものは仕方ありません。ご飯にするので美姫ちゃんを起こしてもらってもいいですか?」
「了解」
俺が美姫を起こしている間に姫香はテーブルに袋から恵方巻を取り出していた。
「ん~。ご飯?」
「そうだよ。ご飯だよ」
「恵方巻!?」
「そうだね。恵方巻」
「やったー!」
可愛いな!?
純粋に心の底から嬉しそうな美姫は天使のように可愛かった。
「じゃあ、ご飯にしましょうか」
テーブルの上には三本の恵方巻。
「美姫ちゃんもかぶりついて食べる?」
「食べる!」
「ほんとに? 大丈夫?」
「大丈夫!」
自信満々に頷いた美姫だったが……。
「まぁまぁ~! やっふぁりきぅって~!」
まるでリスみたいに口いっぱいに恵方巻を入れた美姫は姫香にそう言った。
「美姫ちゃん食べてからしゃべってね。はいはい。今切るね」
美姫から恵方巻を受け取るとキッチンに向かった姫香は小さく切り分けた恵方巻をお皿に乗せて戻ってきた。
「はい。美姫ちゃん。ゆっくり食べてね。のどに詰まらせたらいけないからね」
「は~い」
それから俺たちは恵方を向いて静かに恵方巻を食べ進めた。
この生活がこれからも続きますようにと願いを込めて。
恵方巻を食べ終わった俺たちは本日のもう一つのメインイベント豆まきの準備に取り掛かった。
「ママ~。パパは?」
「パパね。どこ行ったんだろうね~」
リビングからそんな声が聞こえてくる。
そろそろ出て行ってもいいだろうか?
俺は顔に美姫に渡された鬼の仮面を付けていた。
もちろん、美姫が付けていたものなので小さく、すぐに俺だとバレるだろう。
「さて、行くか」
リビングを勢いよく開けて「鬼だぞ~」と中に入っていった。
「あ、パパだ~!」と当然のように一瞬で気づかれたが気にすることなく俺は鬼役をつづけた。
「悪い子はいねぇか~」
「美姫ちゃん。はい豆。あの鬼さんに投げよう!」
「うん! 美姫、あの鬼やっつける!」
「鬼は~外!」
ノリノリな二人の天使は無邪気な顔で俺に向かって豆を投げつけてくる。
何粒か豆を食らいつつ、俺は美姫を追いかけて抱きかかえた。
「捕まった~! ママ助けて~!」
俺の上での中でバタバタと足を動かす美姫は姫香に助けを求めた。
「美姫ちゃん! 今助けるよ!」
えいっと、可愛らしく姫香は俺に向かって豆を投げてくる。
もちろん力の弱い姫香が投げているのであまり痛くない。
俺は姫香にも近づいていって、美姫を抱っこしている方とは反側側に姫香を抱き寄せた。
「私も捕まってしまいました!」
「二人とも捕まえた。このまま食べちゃうぞ~」
なんだかんだノリノリな俺である。
「きゃあ~! 食べられる~!」
「私は食べられても構いませんよ?」
まさかの姫香の反撃に俺は「うっ」と心臓を撃ち抜かれた。
「そんなことを美姫の前で言うな」
「え~! ママ食べられちゃ嫌だよ!?」
もちろんその意味を美姫が分かるわけもなく、本気で心配している。
「美姫のことは食べないから安心して」
「ママも食べちゃダメ!」
「ふふ、どうしますか? パパ?」
頬を膨らませて怒ってる美姫と妖艶な笑みを浮かべて俺をからかってる姫香。
そんな二人に挟まれている俺は仮面の下で苦笑いを浮かべてた。
☆☆☆
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