第228話 大学編part28 学園祭①
「私はある人と再会するためにモデル業をやっていました。そして、去年。私はその人と再会することができました。思っていた形とはだいぶ違いますけど」
そう言って微笑んだ深紅の瞳を持つ天使。
今日は彼女の引退日だった。
マイクの前に立つ彼女にたくさんのカメラが向けられている。
それが彼女の人気を物語っていた。
たかが一人のモデルの引退。
普通のモデルならここまではならないだろう。
彼女だからこそ、氷室姫香という、誰からも愛されたモデルであり女優である彼女だからこそここまで大々的に引退会見が行われているのだ。
「では、氷室さんはその方のために今の地位や人気を投げ出すということですか?」
眼鏡をかけた男性記者が意地悪な口調で問う。
「そうですね」
「もったいない。あなたならもっと高みを目指せるはず・・・・・・」
「こんなこと言ったら、トップモデルになることや人気女優になろうと頑張っている方に失礼になるかもしれません。いや、きっと失礼になるのでしょう。それを承知で言わせていただきます。今の私には、彼と再会できた私にはこの地位は必要ないんです。だったら、とっとと退散するべきだと思ったのです。本気でその地位を目指している方々のためにも。それに私は今が一番幸せですから。彼の隣にいることができて、一緒に笑い合えていることが何よりも幸せなのです」
姫香は記者に、そして、カメラを通して、この引退会見を見ている人々に、最愛の相手に、今までで一番の笑顔を向けた。
「かけがえのないこの時間を私は大切にしたい。モデルのお仕事や女優のお仕事が嫌いになったわけではありません。マネージャーさんをはじめ事務所の方々や関係者の方々は皆さん優しい方達ばかりで楽しく仕事をすることができました。本当にありがとうございました」
立ち上がった姫香は深々と頭を下げた。
そこで、翔は目を覚ました。
「懐かしい夢を見たな」
体を起こしながら隣で眠っている姫香の寝顔を盗み見た。
すやすやと可愛らしい寝顔。
まるで天使みたいな寝顔。
「あれは一年前か・・・・・・」
姫香がモデルを引退して、早一年。
俺たちは高校生から大学生になって、同棲をしている。
夢で見なくとも姫香が記者会見で言った言葉は今でも鮮明に思い出せる。
というか、録画を残している。
「俺も同じ気持ちだよ」
頭を撫でながら、「俺も姫香の隣にいることができて、笑い合うことができて、これからもよろしくな」と言うと姫香の頬が緩んだのが分かった。
「今の録音しておきたかったですね」
「起きてたのか」
「おはようございます。翔君」
「おはよ。姫香」
「さっきの言葉もう一度言ってくれませんか?」
「姫香のことが大好きってか?」
「それじゃないですけど、それもいいです!」
姫香は体を起こすと俺の首に手を回してきた。
「私も翔君のことが大好きですよ!」
「知ってるよ」
俺たちは見つめ合いながら互いに笑い合った。
あの日、姫香が言った通り、これからも俺たちは隣同士にいて、笑い合っていくことだろう。
学園祭当日の朝にそんなことを思う俺であった。
☆☆☆
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