第196話 大晦日&新年編part3  二人で過ごす大晦日①

「だからやめとけって言ったのに」

「そう言う翔君だって楽しそうに遊んでたじゃないですか。ゴホッゴホッ」


 ベッドの上で毛布を口元まで被った姫香が言う。

 おでこには熱さまシート。 

 頬はほんのりと赤い。

 姫香は昨日の真美達との雪遊びで風邪をひいてしまっていた。 

 

「とりあえず、今日は安静だな」

「ごめんなさい。大晦日なのに」

「いいんじゃないか。どうせまったりするつもりだったし。傍にいるから何か欲しい物とかあったら遠慮せずに言えよ」

「はい。ありがとうございます」


 そう言うと姫香は目を閉じて眠りについた。

 

「ゆっくりとおやすみ」

 

 姫香の頭を優しく撫でると、俺は本を取りにリビングに向かった。

 今日は一日読書をして過ごすことになりそうだな。

 何冊かの本を持って自室に戻る。

 そして、ベッドの隣に座り込む。

 

「それにしても、もう十二月か」


 俺はこの半年のことを振り返ってみることにした。

 いろんなことがあったな。 

 六月に姫香をナンパから助けた。 

 あの時は姫香が「ひろくん」だったなんて微塵も思ってなかったんだよな。

 しかも姫香が人気モデルで、映画の主役に抜擢するほどの女優だったことにも驚きだった。

 そういえば、映画にもで出たな。

 それから夏休みはプールに行ったり、花火をしたり、お互いの実家に行ったり、海に行ったり、夏を満喫した。

 体育祭では姫香に頼まれて本気を出してしまったし、文化祭ではプロポーズみたいなことも言ったな。

 そして、クリスマスはおそろいのピンキーリングを買った。

 思えば、この半年はいつもそばに姫香がいた。

 それが今では当たり前のように感じている。

 

「でも、本当は凄いことなんだよな」


 当たり前に感じているこの時間は、ものすごく特別なことなんだよな。

 姫香と再会できたこと。

 姫香と恋人になれたこと。

 姫香とこうして同じ時間を共有することができていること。

 これって、当たり前じゃ何だよな。

 人は慣れる生き物だから、それを当たり前のように感じてしまう。

 だから、すれ違いが起きるし、時には別れることもある。

 そうならないためにもこの日常が当たり前じゃないことを肝に銘じておこう。 

 姫香ともう二度と離れ離れにはなりたくないからな。


「これからもよろしくな」

 

 俺は姫香の耳元でそう囁いて、そっと手を握った。


 ☆☆☆


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