第177話 文化祭編part9 文化祭当日⑥
教室に戻るとお店は再開されていて、意外にも満席だった。
「姫香。教室に帰ってきたよ」
「え・・・・・・」
コーヒーの匂いにで姫香はようやく我に返ったみたいだった。
「ほんとです。いつの間に……」
「姫香が俺の腕にしがみついている間にだな」
「せっかくの文化祭なのに、すみませんでした」
「大丈夫だよ。姫香の可愛い顔が見えたし」
「うぅ……恥ずかしいです」
姫香は真っ赤にした顔を俺の腕に埋めた。
「ほら、そこ!イチャイチャしてないで早く手伝って!忙しいんだから!」
真美にそう注意され姫香は「はいっ!」と駆け足で向かって行った。
「楽しかったか?」
「まぁそれなりにな。歩はダンスはこれからか?」
「翔達に生で見てもらえないのは残念だけど、きっと真美が動画を撮るだろうから後でそれでも見てくれ」
「ああ、楽しみにしてる。楽しんで来いよ」
「ありがとな。後はよろしくな」
「了解」
十四時になり『バカップル』を送り出した。
二人を送り出した後はおやつ時に向けてお店はさらに忙しくなっていった。
お店が落ち着いたことには十七時を迎えようとしていた。
「ようやく一息付けるな」
「そうですね~。お疲れさまでした」
そう言って姫香は俺にコーヒーを淹れてくれた。
「ありがとう。姫香も座ったら?」
「そうですね」
自分の分のコーヒーを淹れて姫香は俺も前の席に座った。
今、教室の中には俺と姫香しかいなかった。
ほとんどの生徒は神々しく燃えているキャンプファイヤーの前でこれから行われるフォークダンスのために校庭に集まっていた。
「姫香も踊りたいか?」
「踊りたいんですけど、足が棒で動けそうにありません」
姫香は残念そうに苦笑いを浮かべていた。
「ほんとに忙しかったもんな」
「ですね。まさかこんなに忙しいとは思っていませんでした」
「もう少し動く体力が残ってたら、参加したんだけどな」
「仕方ないですよ。フォークダンスは来年の楽しみにとっておきましょう。今年は文化祭に参加できただけで満足です!」
「姫香が満足できたならよかった。フォークダンスは来年に一緒に踊ろう」
俺がそう言うと姫香は「はい!楽しみにしてますね!」と嬉しそうに笑った。
コーヒーを啜る。
相変わらずの美味しさと姫香の嬉しそうな笑顔を見てホッとした。
この提案をしたときはどうなることか不安だったが、姫香が楽しんでくれたのなら、今日の文化祭は大成功だ。
「ところで、翔君は楽しめましたか?」
「うん。ちゃんと楽しめたよ」
「ずっと私につきっきりで手伝ってくれてましたから心配だったんです」
「姫香と一緒にいればどこだって楽しいよ」
「もぅ、翔君……それは私も同じです」
姫香は恥ずかしそうにそう呟いて両手でコーヒーカップを持ってコーヒーを啜った。
「だから、俺もちゃんと楽しめたし、いい思い出になったよ」
校庭から愉快な音楽が聞こえてきた。
どうやらフォークダンスが始まったようだ。
忙しくドタバタな一日だったが、なんだかんだ楽しい一日だった。
来年の文化祭はどんなものになるだろうか。去年の俺ならそんなことを考えなかったが、今の俺はそんなことを思ってしまっている。
これも姫香と再会したおかげなのかもなと、窓のそば目を輝かせて校庭を見下ろしている姫香の横顔を見てそう思った。
☆☆☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます