第175話 文化祭編part7 文化祭当日④

 俺たちはまず昼食を食べることにした。

 午後は十四時から当番になっているので、それまでは自由時間だった。


「何か食べたいものはあるか?」


 校庭では三年生がいろんな食べ物の屋台を出してた。

 からあげ・フライドポテト・肉おにぎり・カレーライスなどなど……。 

 教室では作れないような本格的な料理がたくさんあった。


「な、悩みます……」


 姫香は本当に悩ましそうにいろんなお店をキョロキョロと見渡していた。


「翔君はどれにするか決まってますか?」

「どれにするかな……」

「翔君も悩んでるんですね」

「これだけあると悩むな」

「ですよね。どれにしましょうか?」


 二人とも悩んでいるのでブラブラと屋台を見て回ることにした。

 意外と屋台で出している料理のレベルが高くてかなり迷った。

 そして、迷った末に俺たちはいろんなものを買って分け合って食べようということになった。

 数種類の料理を買うと俺たちは屋上に向かった。


「今日は結構人がいますね」

「そうだな。考えることは同じってことだな。ほら、あそこに二人もいるし」

「あ、ほんとですね!」


 俺が指差した方には『バカップル』がイチャイチャと楽しそうにご飯を食べていた。

 そんな二人の邪魔をしたら悪いと俺たちは少し離れたところでご飯を食べることにした。


「それにしても午前中はほんとに忙しかったですね」


 一口サイズ肉巻きが入ったパックを二つ袋から取り出した姫香はそのうちの一つを俺に渡してくれた。


「だから言ったろ?そんな心配はいらないって」

「でしたね。そういえば、翔君が教室で言ってたことはどういうことだったんですか?」


 その一口サイズの肉巻きを可愛い口で一口で食べると俺を見上げてきた。

 その質問に答えたのはいつの間にか後ろに立っていた歩だった。隣には真美もいる。


「それはね。姫香ちゃん!翔目当てで女子がたくさんやってきてたってことだよ!」

「歩……」

「モテモテだったよな。翔!」


 歩はニヤッと笑って俺のことを見下ろしてきた。

(絶対に楽しんでる……)

 俺は歩の顔を見てそう思った。

 そして隣に座っている姫香を見ると、今にも頭から湯気が出そうなほど顔を真っ赤にしていた。


「ひ、姫香……?」

「翔君は絶対に誰にも渡しません!」

「だってさ、翔!浮気しちゃダメだよ?」

「そんなの当たり前だ」

「翔君は私だけを見ていないとダメです!」


 そう言って姫香は俺の顔を自分の胸に抱き寄せた。

 むにっと柔らかな感触に顔が埋もれた。

 絶対に離さないぞ、とさらに抱きしめる力を強めてくる。

 正直、嬉しんだが、苦しくて窒息死そうだった。


「ひ、姫香……離してくれないと死ぬ……」

「嫌です!離しません!」

「いや、ほんとマジで離してくれ。姫香以外のとこに行くつもりもないし、姫香を手放すつもりもないから」

「ほんとですか?」

「うん」


 俺が姫香の胸の中で頷くと、納得したのか姫香はようやく解放してくれた。


「約束ですからね?」

「分かってるよ」

「一生ですよ?」

「一生、姫香と一緒にいるよ」

「嬉しいです」


 プロポーズみたいなそんな約束を交わすと姫香の深紅の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。

 そんな姫香の頭を優しく撫でてやると、嬉しそうに微笑んだ。


「ちょっと、お二人さん?こんなとこで公開プロポーズですか?」

「ま、真美さん!?な、何言ってるんですか!?」


 ニヤニヤと笑う『バカップル』に狼狽える姫香。

 真美に言われて我に返った俺も自分が何を言ったのかを思い出して恥ずかしくなった。


「真美。見てよ。翔が照れてるぞ!」

「え、ほんとだ~!翔が照れてるなんて珍しいわね!」

「さすがの翔も公開プロポーズは恥ずかしかったんだね」

「みたいね!」


 からかえる獲物を見つけたバカップルは容赦なく俺たちのことをからかってくる。

 その矛先は俺だけではなく姫香にも向いた。 


「姫香ちゃんも真っ赤になっちゃて可愛い~」


 そう言って真美は姫香に背中から抱き着いた。

 すっかりとゆでだこのように顔を真っ赤にした姫香は無抵抗にそれを受け入れていた。


「よかったわね!姫香ちゃん!翔が一生守ってくれるって!」

「……はい」

「幸せ者だね~!」

「……はい」

「そんな二人のために私たちも頑張りますか!」

「そうだね。てことで二人は文化祭楽しんできてね。なんなら、帰ってこなくてもいいよ?」

「そうね。二人ともクラスのことは気にせずに楽しんでね!」


 俺たちに手を振った『バカップル』は屋上を後にした。

 取り残された俺たちは恥ずかしさのあまり黙々と昼食を口に運んだ。

 昼食を食べ終わった後でも俺たちの間から甘酸っぱい空気がなくなることはなかった。

 

☆☆☆



 


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