第173話 文化祭編part5 文化祭当日②

 準備があらかた終わり、午前十時。いよいよ文化祭が始まろうとしていた。


「お客さん来ますかね?」

「姫香。自分の人気を知らないだろ?そんな心配してる暇もないくらいに忙しくなると思うぞ」

「そうですかね?」


 俺も言葉を信じていないわけではないだろうが、姫香は首を傾げていた。

 そして、文化祭が始まり。俺の予想は的中することになった。


「姫香ちゃん。翔。コーヒー二つ!」

「こっちも二つお願いします!」

「こっちも~」


 文化祭が始まって十分。教室に作った席はすでに満席になっていて、いたるところから注文が飛んでくる。

 中には姫香と写真を撮ろうとする生徒まで現れたが、もちろん写真撮影は禁止だ。

 歩や真美が写真撮影をしようとしている生徒に注意をしていた。


「姫香大丈夫か?」

「はい。大丈夫です頑張ります。頑張って淹れます」


 俺が言ったのはそういうことじゃないんだけどな。俺が言いたかったのはこの視線だ。教室にお客さんと来ているすべての生徒が俺たちの方に視線を向けている。正確には姫香にだろう。さらには廊下を歩いてる生徒も立ち止まって見てるし、並んでいる生徒までもが視線を向けてきている。

 人気者ってのは大変だな。

 そう思って急ぎコーヒーを淹れていると歩が声をかけてきた。


「翔。大丈夫か?」

「俺は大丈夫だけど、姫香が心配だな」

「そっちも心配だけど、この視線だよ」

「ああ、そっちか」

「そっちかじゃねぇよ。半分は翔を見てるってことに気が付いてるか?」

「え、俺に?姫香にの間違えじゃないか?」

「見てみろよ。女子はほとんど翔に視線を向けてるぞ」


 歩にそう言われて改めて教室内を見渡すと、確かに女子生徒は俺のことを見ていた。目が合った生徒は、きゃー、と黄色い声を上げていた。


「なんで、俺を見てるんだ?」

「そりゃあ、翔が人気者になったからだろ」

「俺が?いつ?」

「体育祭であれだけ目立っておいてよくそんなことが言えるな」


 通りで最近視線をやたら感じると思ったら、そういうことか。


「お前の走りを見てファンになったんだろうな」

「ファンって……俺はアイドルか」

「みたいなもんだろ。見た目だって、翔はイケメンだしな」

「めんどくさい……」

「まぁ、もう諦めろ。お前はもう姫香ちゃんに次ぐ人気者になったんだよ!」


 俺の肩をポンと叩いて楽しそうに歩は笑った。

 

「お客さんたくさん呼んでくれ!」

「俺たちは客寄せパンダか」

「翔たちは親友だぞ?」

「こんな時だけ調子のいいこと言いやがって」


 歩の横腹に肘で突きを入れてやりたかったが、どうやらそんな暇はなさそうだった。

 注文が次から次へと飛んできて、俺はその注文を捌くので手一杯だった。

 


☆☆☆

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