第167話 体育祭編part21 学年別対抗リレー②
俺たちが精鋭を集めたように三年生も一年生も精鋭を集めたらしく、学年別対抗リレーは拮抗したいい勝負になっていた。
順位は、三年、二年、一年、と学年順だった。
そんな均衡を崩したのは片桐だった。
本日三本目の走りのはずの片桐の足は衰え知らずなのか、俺と勝負していた時と同じくらいのスピードで走り、三年生を抜き去った。
そして、二年生が首位をキープしたっまま俺の前に走る歩にバトンが渡った。
三年生との差はほんとにわずかなものだった。
歩がその差をキープしながらやって来る。テイク・オーバー・ゾーンに立ち、俺は一番手前で歩からバトンを受け取ることにした。
「ちょうどいいハンデだな」
どうやら才津も同じ考えらしく、俺と同じ位置でバトンがやって来るのを待っていた。
「余裕ですね」
「足には自信があるからな」
「そうですか。では、先に行ってますね」
「翔!後は頼んだ!」
俺は歩から綺麗にバトンを受け取ると、初めからとトップギアで飛ばすことにした。
数秒遅れて才津の手にバトンが渡った。
俺と才津の差は十メートルほど。足に自信があるといった才津はその差を徐々に埋めてきた。
「どうした?お前の力はそんなもんか?」
「話しかけてくるなんて余裕があるんですね」
「俺は余裕だが、お前は疲れてるようだな」
久しぶりに本気で走ったのと、午前中の片桐との勝負で意外と足にきているらしく、俺はいつものトップギアの走りではなかった。
才津はニヤッと笑うと「先に行くぞ」と俺を向き去った。
どうやら俺では勝てなかったらしい。
その瞬間、「翔君!頑張て下さい!負けないでください!」と姫香の声が聞こえてきた。
今は走っているところは俺たちのクラスのテントの前だった。
姫香が必死な顔で俺のことを応援している。その顔にはうっすらと涙を浮かべているように見えた。
(だから、そんな顔するなって……)
そんな悲しい顔は見たくない。
これで今日はもう終わり。ここで最後の力を振り絞らなくていつ振り絞る。世界一大事な人にあんな悲しい顔をさせたままでいいわけがないだろ。
俺はこれで力尽きてもいと思い、最後の力を振り絞った。
走り終わった二年生のみんなも俺のことを応援してくれていた。
「翔、頑張れ!」
「あと少しだぞ!」
才津の背中を捉え、横に並んだ。
「追いついてきたか」
「そうですね。大事な人に涙を流させてしまいましたから」
そこからは、俺と才津が交互に抜いたり抜かれたりを繰り返し、ゴールテープまでの最後の直線に差し掛かる。
顔に当たる風が痛い。しかしそれよりも姫香に涙を涙を流させてしまったことによる心の方が痛かった。
ここまで来て負けるわけにはいかない。
その思いが先走り、足が絡まりそうになり「やべっ……」と声を上げた。
ゴールテープが目の前にある。これを先に着れば俺の勝ち。
どんなに不格好でもいい。そう思い、俺は顔でゴールテープを切るとそのまま豪快にこけた。
「大丈夫か!翔!」
すぐに歩が近寄ってきた。
それから、「翔君!」という声と「翔!」という二人の女子生徒の声が聞こえてきた。テントから出てきた姫香と真美だった。
「翔君!大丈夫ですか!?」
その目に大粒の涙を浮かべていた姫香は俺の顔を膝の上に置いた。
「誰かさんが泣くから、頑張り過ぎてしまったよ」
「頑張りすぎです。翔君が怪我をする方が私は悲しいです」
「ごめんな。でも、勝ったぞ」
膝を擦りむいて痛かったが、その痛みを我慢して俺は姫香に笑顔を向けた。
「そうですね。でも、強がってはダメです」
「痛いんでしょ?」と姫香は俺の膝を指して言った。
「少しだけな」
「山崎さん。翔君を保健室に連れて行ってきますね」
「うん。任せてもいいかな?」
「はい」
歩の肩を借りて立ち上がると、姫香が俺の腕を自分の肩に回した。
「それじゃあ、行きますよ」
「迷惑かけてごめん」
「何言ってるんですか。助け合うのがパートナーってものでしょう」
「そうだな」
あえて『パートナー』という言葉を使った姫香の真意が何となく伝わってきた。
俺たちは校庭を後にして保健室に向かった。
☆☆☆
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