第164話 体育祭編part18 お昼休憩

 午前の種目が全て終わり、昼休憩となった。生徒たちは皆、各々の教室に戻って行った。。

 椅子は校庭に持って出ているので、俺たちは地べたに座ってご飯を食べることになった。俺の隣に歩、対面には姫香と真美が座っていた。


「姫香ちゃん。あれはちょっと大胆過ぎじゃないかな?」

「やっぱりそうですかね……次からは気を付けます」


 しょんぼりとした顔の姫香に真美は「何言ってるの?」と悪戯な笑みを向けた。


「最高よ!もっとやっちゃって!翔のことを骨抜きにしてあげて!」

「何バカなこと言ってんだよ」


 脳みそがお花畑になっている真美に俺は軽く注意する。

 注意したが華麗に無視した真美は話を続けた。


「翔はもっと目立つべきよ。どうして目立ちたくないのかしらね」

「真美さんも知らないのですか?」

「知らないわね。聞いても教えてくれないし」


 真美と姫香が俺のことをチラッと見た。

 その目は「どうしてなのか?」と問いたげだ。

 別に大した理由はない。

 ただ、中学生の時に目立った行動をとりすぎて、目立つことが嫌になってしまっただけだ。

 中学生時代の俺を知っている『バカップル』なら俺がどれだけ目立っていたか知っているだろうに。おそらくだが、二人がたまに俺に言う『凄い奴』っていうのもそこからきてるんだろうな。


「まぁそれは置いといて、というわけだから姫香ちゃんこれからは遠慮せずにどんどん攻めちゃってね!どうせ、もう学校中に二人が付き合ってることは知れ渡っちゃたんだし!」

「が、頑張ります!」

「頑張らなくていいからな?」

 

 そう言った俺のことを姫香の可愛らしい深紅の瞳がしっかりととらえると二回目の「頑張ります!」を満面の笑みで言った。

 

「姫香ちゃんキラキラしてるな!」と歩は手を俺の肩に乗せた。

「これからが大変だぞ。頑張れよ!二代目バカップル!」

「うっせぇ」と俺は歩が肩に乗せた手を振り払った。


「翔君。ご飯を食べる手が止まってますよ。食べさせてあげましょうか?」

「結構です」

「なんでですか。遠慮しなくてもいいのに」


 姫香は四つん這いで俺に近づいてきて、弁当の中から卵焼きを俺の箸で掴むと口元に差し出してきた。

 そのポーズのせいで体操服の下に隠れているスポーツブラがチラッと見え、俺は顔を逸らした。


「ほら、どうぞ。あ~ん」

「ひ、姫香、みんなが見てるから……」

「それがどうかしたのですか?」


 ダメだ。

 完全に枷が外れてしまっているらしい。

 姫香はその口元に悪戯っ子の笑みを浮かべ、可愛らしい瞳はおもちゃを見つけたように輝いていた。


「食べてくれないならこれは私が食べますからね。そしたら、間接キスになりますね」


 恥ずかしげもなくそう言った姫香は俺の箸で掴んでいる卵焼きを自分の口に運ぼうとした。

 そんな姫香の口に到着するギリギリのところで腕を掴むと俺はその卵焼きを食べられる前に食べた。


「姫香。心臓に悪いから学校では、こいうことはやめてくれ」

「では、学校以外のところでだったらいいのですか?」

「まぁ、人目があまりなければ……」

 

 その言葉を待ってましたと言わんばかりに姫香は「分かりました」と満足げに頷いた。


「じゃあ、学校ではほどほどにしておきます。私も翔君以外の人にジロジロと見られるのはあまり好きではないので。その代わり、翔君の家にいる時は……覚悟しておいてくださいね?」


 相変わらずの姿勢のままウインクをしてきた姫香。

 『バカップル』に毒されて姫香がどんどんと大胆になってきている。

 俺は姫香がこうなってしまった元凶を睨んだ。


「真美。なんだか寒気がするね」

「そうね。クーラーが効きすぎてるのかしら」


 白々しいことを言いながら俺と視線を合わせないようにしている二人はお互いに弁当を食べさせ合っていた。

 そんな『バカップル』のことを姿勢を戻して俺の隣に座った姫香は羨ましそうな目で見ていた。

 

☆☆☆




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